『ウサギとウツボの鬼ごっこ』
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昼休みに和解して、フロイドを避ける必要がなくなった私は、リドルとジェイドにありがとうとお礼を述べて、そのままフロイドと一緒に自分のクラスに戻ると、飛行術の授業を受けるために体操着を持って空き教室に移動しようとしたらフロイドに手を取られた。
「フロイド?」
「着替えに行くんでしょ? オレが一緒に行ってあげる♡」
「え? 着替えるだけだし大丈……」
「前に一人でいて危ない目に遭ったの忘れたわけ?」
「ゔっ……」
フロイドに以前男子生徒複数に乱暴されそうになった事を持ち出され、ぐうの音も出ないでいると、さっさと着替えに行くよと彼の大きな手に引かれるまま空き教室へと歩き出した。空き教室の扉の前に着くと、私をその中に押し込み終わったら出てきてね? と告げると、フロイドはそのまま扉を閉めた。どうやら私が着替え終わるまで、扉の前で門番のように立って待っているつもりらしい。有難いけれど、フロイドは着替えなくて大丈夫なのだろうか? そんな事を思いながらいそいそと着替えて教室を出ると、そこには運動着に着替えたフロイドがいた。
「あれ? いつ着替えたの?」
「オレはホワイトシクリッドちゃんと違ってオスだから別に見られても困らねぇの! だから待ってる間にココで着替えた」
「なるほど……待っててくれてありがとう」
「どーいたしまして♡ ほら、行こ?」
彼の人魚特有の少し低い体温を、自分の獣人族特有の高い体温で中和しながら、私の小さな手をすっぽりと覆ってしまうその大きな手に引かれるまま、バルガス先生がいる運動場に向かっていると、フロイドにいきなり抱き上げられた。
「ちょっ?! フロイド?!」
「ホワイトシクリッドちゃん歩幅小せぇからこのままだったら遅刻しそう! 遅れてロブスター先生に何か言われんのダルイしオレが運ぶ!」
「運んでくれるのは有難いけど、もう少し優し……っ!」
フロイドが走っている最中に話した事によって軽く舌を噛んでしまった私は、口を押えて悶絶したまま運動場へと連れて来られた。フロイドに下ろされた私がその場に蹲るように座り込むと、彼も同じように隣に座り込み、不思議そうに首を傾げて私を見つめると、どうしたの? と声を掛けた。
「ひははんら……」
「え? なんて?」
「舌噛んだって言ってるんじゃないっスか?」
「らひーへいはい!」
「そんな状態で名前呼ばないで下さいよ。スゲー間抜けに聞こえるっス」
ラギーと二人で会話していると、フロイドが面白くないというようなムスッとした表情を浮かべながら、私に舌見せてと告げた。彼の言葉にベッと舌を出して見せると、彼は綺麗なヘテロクロミアを大きく見開いた。
「? ふろいろ?」
「あ、いや……ホワイトシクリッドちゃんの舌が小さいし短くてビックリしただけ……」
「フロイド君は長いっスよね? 獣人族でもティノちゃんは草食の獣人族っスからね? 舌はそこまで長くないっスよ」
「ふーん……ていうか、何でコバンザメちゃんはそんなにホワイトシクリッドちゃんの事分かってるわけ? 好きなの?」
「オレがティノちゃんをっスか? 好きか嫌いかなら好きだけど、フロイド君の思ってる好きとは違うかなぁ?」
「……ふーん?」
「何スか? その訝しんだ顔は。オレティノちゃんの事は妹みたいにしか見てないんで」
ラギーの言葉を聞いたフロイドは安心したように笑うと、ならいいやとほうきに跨りふわりと少し浮いた。アズールとジェイドに比べるとフロイドの飛行術はマシではあるけど、上手とは言い難い。そんな彼を見つつ、ラギーと一緒に結構な高さまで浮上すると、一年生がクルーウェル先生の錬金術の授業を受けているのが見えた。
「ラギー、一年生がまた何か大変そうな事になってるよ?」
「犯人はグリム君っスかね?」
「どうかな? 意外とデュース君辺りかもしれないよ?」
「あー……ありえそう」
「ちょっとー!! 二人で何仲良く話してんの?!」
少し下の位置からこちらを見上げながら声を掛けるフロイドに、ラギーと二人で顔を見合わせると、仕方ないなと高度を落として彼の元に行くと、先程見た物を彼に伝えた。すると、彼も見たかったと拗ねたので、私の後ろに彼を乗せると先程と同じ高度まで上がると、ほらあそこだよ? と彼に見せると、先程よりも状況は悪化していた。
「カニちゃんとサバちゃんと小エビちゃんがイシダイ先生に怒られてるね?」
「そうだね? あ、グリム君は子猫になってる」
「ホワイトシクリッドちゃん、もう少し近くに寄れない?」
「もう少しだけね?」
フロイドの要望に少し廊下の窓の方に寄ると、さっきよりも教室の様子がはっきり見えるようになった。すると、監督生ちゃんの腕の中に子猫位のグリム君がいて、可愛いなと思っていると、こちらに向かってピョンと飛び出て来た。その思わぬ行動に驚き、魔力のバランスが崩れてしまった私達は、そのままフロイド共々真っ逆さまに地面に落下した。が、痛みがない。どういう事だろうと思っていると、私の頭上でいてて……という声が聞こえて来た。
「ホワイトシクリッドちゃん大丈夫?」
「私は大丈夫だけど、フロイドは?!」
「ちょっと擦り剝いたり背中打ったけど、大丈……ってー!」
「フロイド?!」
「何か左手首いてー……」
フロイドの左手首を見ると、落下の際に私を庇う為に捻った様で赤く腫れて来ていた。私達の元に駆け寄って来たバルガス先生に、二人共保健室へと行くようにと言われたので、フロイドと共に保健室へと歩き出す。痛めた左手首を押さえているフロイドが心配で、チラチラと彼を見上げていると、なぁに? と体を屈めて顔を近付けて来た。
「あ、その……私がバランス崩したからフロイドにケガさせちゃって……ごめんね? 左手だから利き手でしょ?」
「あー……」
「私が出来る範囲なら何でもするから言ってね?」
「……何でも?」
「え? うん……? 変な事じゃなかったら」
そう言う私を一瞬何かを企んだような表情で見下ろすと、フロイドは後で金魚ちゃんにホワイトシクリッドちゃん暫く借りるって言っとこう♡ と楽し気な声で告げたのだった。変な事をさせられるような嫌な予感はしないけれど、彼の手首が治るまではこき使われるんだろうなと思わずにはいられなかった。
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