『ウサギとウツボの鬼ごっこ』
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「ジェイドただいまぁ♡」
「おや、ティノさんと一緒だったんですね?」
「うん!」
「ティノ? 元気がないようだけど大丈夫かい?」
「え? あ、大丈夫だよ?」
「フロイドに何かされたならちゃんと言うんだよ?」
「うん、ありがとうリドル」
フロイドに連れられるように教室へと戻って来た私を見て、心配そうに気遣って優しい言葉を掛けてくれるリドルに、素直にお礼を述べて笑ってみせると、私より少し大きい手で頭を撫でられた。それを大人しく受けていると、隣からグッと何かに引き寄せられ、何だ? とそちらを見上げると、不機嫌そうにムスッとした表情をしているフロイドがリドルに触るの禁止! と告げていた。
「全く何なんだい! ティノは嫌がってないだろう?」
「嫌がってなくてもダメ! ホワイトシクリッドちゃんに触って良いのはオレだけなの!」
「おやおや」
「フロイド……苦しいから離して?」
「ヤダ。ホワイトシクリッドちゃんに触って良いのはオレだけってちゃんと金魚ちゃんに言って!」
「イヤ。私リドルに撫でられるの好きだもん」
彼の胸元をグッと押し返し、彼の言葉に反する事を伝えた。すると、ホワイトシクリッドちゃんの浮気者と罵られた。別に付き合ってはないから浮気も何もないだろうと思って呆れからくる溜息を吐いてみせると、途端に彼は何かに焦ったように顔色を窺ってきた。フロイドってこんな感じだったっけ? と思っていると、ジェイドに好きなメスに振り向いて欲しくて必死なただのオスなんですよと言われた。ウツボは臆病なのでとも追加で耳打ちされた。
「ジェイド! それ以上ホワイトシクリッドちゃんに近付かないで!」
「んふふ……あなたが絡むと僕の兄弟は途端に面白くなるようですね?」
「私は全く面白くないし、いい迷惑なんだけど?」
尚もギュウギュウと私をその長い腕で拘束してくるフロイドに、苦しいから離してと抗議すると、離したらどっか行くじゃんと拗ねられた。確かにこのまま逃走したい所ではあるけど、今からまた授業があるのでそれは諦めて、彼の腕から抜け出ると早々と席へと着いた。そんな私の左隣を陣取ったのはもちろんフロイドで、右隣にジェイド、リドルと続いた。うん、ウツボ兄弟に囲まれて逃げ場が無くなったね。まぁ、二人共賢いから分からなかったら教えて貰おうと決めて、チャイムと同時にルチウス君と入って来たトレイン先生へと視線を向けた。
「フロイド? 何してるの?」
「ん〜? 授業飽きたからホワイトシクリッドちゃんの髪で遊ぼうかなって思って♡」
「まぁ、引っ張ったりしなかったら全然好きにしてくれていいけど……あ、フロイド? ついでにコレ教えて?」
「んー? あー……それはココ読んだら書いてあるからもう一回読んで?」
「分かった」
サラサラと私の髪を梳いていた長い指を使ってココと教えてくれた彼にお礼を告げて、その場所を読み込みながら問題を解いていると、私の首筋をフロイドの指先が掠め、んっ! と肩を揺らして変な声を出してしまった。私の声に驚いたのはフロイドだけじゃなく、右隣にいたジェイドもだったらしい。
「えっと……その……」
「ジェイド。今何か聞いた?」
「いいえ? 何も」
「……本当に?」
「えぇ。ティノさんの可愛らしい声なんて聞いてませんよ?」
「聞いてんじゃねぇか! 今すぐ忘れろ!」
私を挟んで兄弟喧嘩を始めた二人にどうしたもんかと思っていると、トレイン先生とリドルの怒号が教室に響いた。うん、規律に厳しい二人だもんね。そりゃ怒るよね、うん。先生とリドルに怒られた二人は、しょんぼりと項垂れていた。そんな二人を気にすることなく魔法史の授業は進行していき、ジェイドはすっかり気持ちを切り替えた様子で、リドルと共に集中して先生の授業に耳を傾けていた。そんな二人のようにはいかないのが私の隣にいるフロイドだ。すっかりヤル気を無くしてしまっている彼は、私の方にその頭を向け、撫でてと強請った。仕方ないなと彼のサラサラの髪を撫でていると、授業終了の鐘が鳴り響いた。板書どころではなかった私は、後でリドルにノートを見せて貰いつつ、授業の説明をして貰おうと考えていたら、カツコツと靴音を立てながらトレイン先生がこちらに歩いて来るのがわかった。もしかして私も何かペナルティー? と身構えていると、先生はフロイドとジェイドに反省文三枚と特別課題をしてくるようにと手渡すとルチウス君を腕に抱いて教室から出て行った。
「うげぇ~……反省文と特別課題とかマジ最悪……元はと言えばジェイドが悪いんだからジェイド、オレの分もやっといて~」
「イヤです」
「何でだよ! やってくれたって良いじゃん! ケチ!」
「課題は自分でやりなよ、フロイド」
「金魚ちゃんうぜぇ……」
「もう……喧嘩なんてするからだよ?」
「あんな声出すホワイトシクリッドちゃんも悪いと思う」
「あ、れは……フロイドが……」
「なぁに? オレが悪いの?」
彼が授業が始まってすぐ、その綺麗な長い指で器用に編み込んだ私の雪のように白い髪の先を、指先で弄りながらズイッと顔を寄せると、そのヘテロクロミアをスッと細めて笑ってみせた。その表情を見て、今変な事を言ってしまうとこの後の呼び出しにも差し障りそうな気がした私は、ナンデモナイデスと口を噤んだ。
「そうだ! ホワイトシクリッドちゃん!」
「ん? なに?」
リドルにノートを借りて先程の授業の説明を受けながら写させて貰っていると、フロイドが良い事を思いついたというようなウキウキとした表情でこちらを見下ろしていた。その顔を見て、私は変な事じゃなかったら良いんだけどなと思いつつ、彼に問い返した。
「この課題ちゃんと自分でやったらご褒美頂戴?」
「ご褒美? 私が出来る事なら別に良いけど……そんな高価な物を買ってとかは無理だからね?」
「そんなんじゃねぇから大丈夫!」
ご褒美貰えるなら頑張ろ~♡ とヤル気になっていたので、フロイドの事は放っておいて、私はリドルに教えて貰って先程の授業の遅れを取り戻す事に成功した。遅れを取り戻せた安堵と教えながら写させてくれた彼への感謝でいっぱいだった私は、フロイドが後程ご褒美として要求してくる事がとんでもない事だと知る由もなかった。
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