『まっすぐみつめて』
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早朝から皆で訓練に勤しみ、少し休憩しようとなった際に芝生に腰を下ろした少女恋羽は、ぼんやりとしながら一箇所を眺めていた。そんな恋羽の隣に、長い髪をポニーテールに纏めた少女が腰を下ろすと声を掛けた。
「……お前、憂太の事よく見てるけど好きなのか?」
「真希ちゃん……」
「どうなんだよ?」
「……好きだよ。でも、見てるだけで良いんだ」
そう言って何かを諦めているように悲しげに笑ってみせた恋羽に、真希は何も言えず、自分よりも少し下にある彼女の、春の花の花弁を思わせる淡い桃色をした柔らかい髪に手を伸ばして撫でた。
「……言わなくていいのか?」
「うん、あの子には勝てないもん。だから、私は見てるだけでいい」
「おーい! 真希ー! 恋羽ー! そろそろ再開するぞー!」
「おう! すぐ行く!」
パンダに呼ばれた真希は先にスッと立ち上がり、座ったままの恋羽に手を差し出した。彼女の小さく柔らかい手が、真希の手を握ったのを感じると、行くぞとその手を引いてパンダ達が待つ場所へと足を進めた。
✱✱✱
「乙骨先輩?」
「どうした? 憂太」
「ツナマヨ?」
「え? あ、何でもないよ」
少し離れた場所からパンダ達の方へと、真希と手を繋いだまま歩いてくる少女を見ていた憂太は、彼女らから視線を外してパンダ達の問い掛けに何でもないと首を振って答えた。最近真希の隣にいるに少女によく見られている気がしていた。彼女はコチラと目が合っても逸らすことは無く、ずっと一点を見つめているので、自分の気のせいだろうかと思う事も少なくなかった。薄紅の大きな瞳は一体何を見ているのか、憂太はそれが自分であればいいと少なからず思っていた。里香の事は解呪した今でも愛している。けれど彼女に、恋羽に惹かれている自分がいる事もまた事実で。
——そんなある日。
こちらを見ている筈なのに、一向に合わない彼女の視線の先を追い掛けて気付いてしまった。彼女の視線の先にいるのは、出先から戻ってきたのかいくつかの紙袋を持たされている伏黒と、楽しげに何かを話しながら歩く五条の姿だった。もしかして、彼女はどちらかの事が好きだったりするのか? このままだと自分じゃない誰かのものになってしまう。そんなのは嫌だ。絶対許せないという思考に至った所で、憂太は自分の気持ちを自覚したのだった。
✱✱✱
「お前また見てただろ?」
「真希ちゃん……うん、だって好きだもん」
「あ゛ーもう! そんなに好きなら言えよ!」
「言わない……この気持ちは内緒なの……」
授業が終わり、教室に忘れ物をした事に気付いた憂太がそこに辿り着くと、中から誰かが話す声が聞こえ、取っ手に手を掛けるだけで開けることはせず、中の声に耳を傾けると、どうやら声の主は恋羽と真希らしかった。真希曰く、恋羽はいつも誰かをジッと見ているらしい。それに彼女の想いは内緒だと。秘密にしなければいけない想いって事は相手は先生か? と、恋羽に想われているであろう相手を脳内に浮かべ、右手をギリッと音がするほど強く握った。恋羽に手を出すようなら殺すと決意していると、目の前の扉がガラッと開いた。
「おわっ! 憂太! お前何してんだよ?」
「え? あ、ちょっと忘れ物取りに来たんだ」
「ふーん……」
「憂太が忘れ物なんて珍しいね?」
「あ、はは……」
彼女の言葉に困ったように笑った憂太は、今から任務だからコイツの相手してやってくれと言い残して教室から出て行った真希に、戸惑いながら了承の言葉を返すと、入れ替わるように教室へと足を踏み入れ、後ろ手に扉を閉めた。
「…………」
「恋羽ちゃんは、その……好きな人っている?」
「……何でそんな事聞くの?」
「いや、どうなのかなって……気になって……」
「……いるよ? でも、無理だから」
何処か寂しそうに諦めたように笑う彼女を引き寄せて、腕に閉じ込めて自分じゃダメなのかと言いたい気持ちを堪え、自分に何か出来ることがあるなら言って欲しいと伝えると、彼女は先程とは違い、泣きそうな表情を浮かべた。その表情の真意を問い掛けようと、口を開きかけた憂太を遮るように恋羽が声を発した為、憂太の問い掛けは掻き消された。
「忘れ物、見つかった?」
「え? あ、うん!」
「そっか……じゃあ、私部屋に戻るね……」
「あ……うん……」
彼女の小さな背中が遠ざかっていくのを見ていると、このまま彼女が自分の手が届かない場所に行ってしまう気がした憂太は、慌てて彼女の細い手首を掴んで引き止めた。引き止められた事に驚いた彼女だったが、憂太の様子がいつもと違う事に気付いたのか、少し心配そうに彼を見上げて、どうしたの? と掴まれていない方の手で、彼の白い頬に触れながら問い掛けた。
「恋羽ちゃんは……先生が好きなの?」
「私の好きな人は五条先生じゃないよ」
「じゃあ、伏黒君?」
「ううん。恵でもないよ」
彼女の顔を見る限り、嘘を吐いているようには見えない。そうすると、彼女が言ったことは真実という事になる。じゃあ、彼女に想われているのは一体誰なのか。先生だから言えないという事じゃなかった。という事は相手は同性か?
「もしかして、真希さん?」
「あはは! 真希ちゃんじゃないよ。確かに真希ちゃんは綺麗だしカッコイイけど、真希ちゃんは私の好きな人知ってて、言えよ! って怒られてる位だよ」
だから違うよ? と笑った彼女を見ながら、後は誰だ? と再び思考を巡らせた。伊地知さん? 七海さん? 狗巻君? パンダ君? それとも、自分の知らない補助監督の誰かか? 彼女に想われている自分の知らない相手が羨ましくて、思わず掴んでいた彼女の手首を力いっぱい握ってしまった憂太に、恋羽は痛いと訴えた。
「憂太、手……痛い……」
「え?! あ、ごめん!」
「……そんなに私の好きな人知りたいの?」
「知りたいよ!」
「……どう、して?」
「どうしてって……僕が君を好きだから」
「えっ……?」
恋羽の腕を引いてその華奢な身体をギュッと自分の腕の中に閉じ込めると、憂太は誰にも君を渡したくないから、君の好きな人が知りたいと、彼女の耳元で囁いた。いきなりの事にパニックになりながらも、恋羽は憂太の背中にそっと腕を回し、彼の胸元に耳を寄せた。そして、バクバクと早鐘を打つ心音に耳を傾け、夢じゃないんだと安堵すると、顔を上げて憂太と彼の名を呼んだ。
「私の好きな人は憂太だよ?」
「……え?」
「里香ちゃんを大事にしてる憂太が好き。けど、私の事も見て欲しい。でも、里香ちゃんには勝てないからきっとこの恋は実らないって諦めてたの……」
「確かに里香ちゃんは僕にとってずっと大事な人だよ。でも、恋羽ちゃんだって僕の大事な人なんだ……真希さん達高専の人達ももちろん大事な人だけど、その中で一番大事なのは恋羽ちゃんだよ」
「私、諦めなくていいの……?」
「諦めないでよ。僕は君の心も身体も全部が欲しい」
「憂太、欲張りになったね?」
クスクスと可愛らしく笑う彼女が愛しくて、憂太はずっと触れてみたかったその小さな唇に自分のそれを重ねて奪った。驚いた表情を一瞬見せた恋羽だったが、誘うように薄く唇を開いた。その隙に憂太は彼女の口内へと舌を差し入れ、その小さな舌を器用に絡めとると吸い上げたり、舌を擦り合わせて小さな口内を気が済むまで蹂躙すると、彼女の唇を解放した。そして、そのまま彼女の身体を机に寝かせるように倒し、困惑する彼女に憂太は苦笑しながら少しだけと、彼女の制服のボタンに手を掛け、前を開いた。
「はぁ、はぁ……んぇ? ゆ、うた?」
「はぁ、ごめん。ちょっとだけ触らせて……」
「あっ! 憂、太! んっ……やだっ、小さいから! あっ!」
「そうかな? 恋羽ちゃん十分大っきいよ? 柔らかい……」
「んんっ、ふっ、ン……あっ!」
彼女の白く細い首から、彼女が身じろぐ度にふるりと揺れる胸元に顔を寄せ、チュッと何ヶ所かに吸い付いて、彼女は自分のモノだという跡を制服で隠れる位置に残した。惚けている彼女の制服を整えながら、チラリと見えた項にもチュッと唇を寄せて強く吸い付くと、彼女の手を引いて教室を後にした。
ーー翌日……
「おい憂太」
「あ、おはよう。真希さん。どうしたの?」
「どうしたの? じゃねぇだろうがっ! 私は確かに恋羽の相手してやってくれって言ったが、そういう意味じゃねぇんだよ!!」
「あぁ……恋羽ちゃんの首筋のアレの事かな? 大丈夫だよ。僕達付き合ってるし、まだ最後まではシてないから」
「「…………はぁぁあ?!」」
「すじこ?!」
いつ?! いつから?! と問い詰められている憂太の元に、おはようみんなと手を振りながら少し遠くから現れたのは渦中の一人である恋羽で。彼女がジャージの襟を上まで上げているのは、きっと先程会った真希に、上げとけと言われたからだろうと容易に想像がついた憂太は、締りのない顔でへらりと笑った。
「ヘラヘラしてんじゃねぇよ! 憂太! アイツの全部が欲しけりゃ私に勝ってみろよ。勝てなきゃ勝てるまでアイツ抱くのはお預けだからな」
「憂太の奴可哀想に。真希ガチじゃん。まぁ、真希も恋羽可愛がってるからな」
「しゃけしゃけ」
「……絶対勝つ!」
「二人共ヤル気十分だね! カッコイイ!」
「自分の貞操賭けられてるのに恋羽は呑気だな……」
「こんぶ ツナマヨ」
「なるほどな? さっきの話聞いてなかったらそうなるか」
「え? 何の話? ていうか、二人共真剣だね? 何か賭けたの?」
状況が読めない恋羽に、パンダは知らない方がいい事もあると、彼女の身体を隣にいた棘と一緒に背後から包むようにして腕に抱き込んだ。ふかふかだぁと喜ぶ恋羽の声に振り向くと、パンダの胸元に顔を埋めている恋羽の姿があり、一瞬にして憂太の顔から表情が抜け落ちた。
「ねぇ、パンダ君……剥製になりたくなかったら恋羽ちゃんに触らないでくれる?」
「憂太! 後ろ!」
「よそ見するなんて余裕だな?」
「……恋羽ちゃんも、後で話があるから待っててね」
表情が抜け落ちたまま恋羽とパンダを見た憂太は、そのまま真希との訓練に勝利すると、恋羽の身体を肩に担いで校舎へと戻って行った。これはそのまま憂太にお仕置されるんだろうなと、この後の恋羽の身を按じるようにパンダ達は合掌したのだった。
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