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短編(他所様TP関連)

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ぱぁん、と小気味の良い音がコントン都中に響き渡る。
「今日は俺の勝ちですね」
「まだ勝負はついとらんわい」
何故だか勝ち誇るチリーと悔しそうな老界王神、そしてやれやれと言いたげなトランクスに、サクはぱちくりとまばたきした。
「またですか……」
「なん……何の音だ?今のは……」
「サク。悪いんだけどこれ、頼めるかしら?」
時の界王神から渡されたのは、救急箱だった。
「すぐ必要になると思うから」
その言葉の意味をサクが理解したのは、数分後のことだった。




「俺ってやっぱり悪い男なのかなぁ」
ぼやくように呟くビートの横っ面には、見事なまでの赤い手のひらの痕があった。
サイヤ人の女性と痴話喧嘩で揉めた、もといビートが一方的に責められた結果の産物だと言うのだから、サクとしては何とも言えない気持ちになるしかない。
お互い厄介な男に惚れたな、と、顔も知らない女性に、内心で同情した。
「そう言われたのか?」
ビートを椅子に座らせて、爪で引っ掻かれたらしい痕を消毒してやりながら、サクは聞き返す。
「いや、うーん……あっ、いててっ」
「我慢しろ」
消毒液が染みたらしいビートの目尻に涙が浮かぶ。
傷口にガーゼを当ててやり、テープで止めてから、サクは小さく笑った。
「なかなか男前じゃないか」
「そうかな……」
「先程の問の答えだが」
氷嚢を取り出してビートに渡してやりながら、サクは言った。
「君は良い男だとは思うが、確かに悪い男でもあるな」
「それって両立するんだ」
「言葉の上では対義していても、根本の定義が異なれば両立もするさ」
なるほど?と、わかっているようなわかっていないような顔でビートは首を傾げてみせる。
サクは小さく微笑んで、
「誰かが惚れるほどには良い男だが、誰かが泣かされるほどには悪い男ということだな」
―――私のように。
とは、あえて、言わないけれど。
「で、泣かした女性はどうした」
「走ってっちゃった……」
「そうか」
ライバルが1人消えたと喜べばいいのか、君もまた被害者かと哀れめばいいのか。
サク自身、惚れた男を独占したい欲がないわけではない(というか有り余っているから困っている)のだが、ビートの性質上、それを望むのは困難なことこの上ない。
『サイヤ人の血を引く者を全員平等に愛している』なんて、どうやって振り向かせたらいいのか、未だに分からない。
いや、振り向いてくれてはいるのだ。
ただ、その視線が、他にも向くだけで。
「君も、いい加減一人に決めたらいいのにって思う?」
まるでそんなサクの思考を見透かしたかのように、ビートが言った。
サクは少なからず驚くが、すぐにそんなわけがないと思い直し、平静を取り繕う。
「まあ、そうだな」
そう答えてから、サクは小さく溜息を吐く。
「……そして、出来ればそれが私であって欲しいと思うよ」
あ、と、ビートがようやく自分の言った言葉の意味に気づいたらしい。
「……ごめんね」
「君の無神経さにはもう慣れた」
そうは言ったものの、サクは少し仕返しがしたくなった。
申し訳なさそうな顔をしている彼の頬に手を添えてやり、きょとんとしている彼を無視して―――触れるだけの、キスをする。
「え」
ほんの数秒だけ押し付けたそれをすぐに離して、サクはくるりと身を翻す。
「さ、サクちゃ、」
「早く治したまえよ、色男」
引き留めようとするビートにひらひらと手を振って、サクは部屋を出ていく。
ドアをばたんと後ろ手に閉じて、サクは独り言のように呟いた。
「…………浮気性の方もな」
期待なんかしていないけどな、と、サクは溜息を吐いた。



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