短編(ターレス夢)
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「棚バター?」
「七夕です!」
怪訝そうに視線を寄越すターレスに対し、ヒメノは顔を輝かせながら、綺麗に切り揃えた紙を差し出した。
「短冊って言って、この紙に願いごとを書いて、笹に吊るすんですよ!」
「……で?」
「えっ」
「何の意味がある」
興味ない、と言いたげに、ターレスは鼻を鳴らす。
「叶えたい願いとやらを紙に書き出す前に、自分の力で叶えればいいだろう」
「そ、それは……」
何とも彼らしい台詞に、ヒメノは言葉に詰まる。
そこまで深く考えてはいなかった。というか、毎年ただ書きたいことを書いていただけだった。
確かに、ターレスからしたら『願いごと』などという概念はないのだろう。それは誰かに願うものではなく、実力で奪うものなのだから。
けれど、何となくヒメノは諦め切れずに、
「ろ、浪漫っていうか……星に願いを、みたいな……?」
「宇宙空間に漂う石ころどもに、何が出来る」
「うっ……」
やっと絞り出した返答も、呆気なく蹴り飛ばされてしまった。
(……少し浮かれ過ぎたかな)
内心、小さく反省する。
ただ、ちょっと。
ターレス先生と、イベントを楽しみたかった、だけなんだけれど。
「……それがお前の願いごととやらか?」
と。
ヒメノが持っていた紙の中にある、既に文字が書かれていた1枚を、ターレスは目敏く見つけたらしい。
「そ、そうですけど」
「よこせ」
「えっ?」
「見せろ」
「えっ」
意外な展開に、ヒメノの反応が一瞬遅れた。
いったい何を言い出すのか、この人は。
「だ、ダメです!!ダメに決まってるでしょ!!」
ヒメノは慌てて後ずさる。
その反応に、ターレスは目を細め、にやりと笑ってみせた。
「……オレの言うことが聞けないのか?」
―――唐突に、耳に滑り込む低音。
距離を置いても破壊力のあるその声色に、ヒメノは思わず固まってしまう。
「そ……その言い方はずるいですよ……!!」
「クク……」
ターレスは満足げに笑ってから、
「で、どうなんだ」
と、再び「よこせ」と言いたげに、ジェスチャーしてみせた。
「……だ、ダメです」
ヒメノはふるふると首を振る。
「たとえターレス先生であっても、これはダメです」
「……そうか、わかった」
思いのほか物わかりよく、ターレスは手を引っ込めた―――
と、思いきや。
「とでも言うと思ったか?」
「ああーっ?!」
ターレスは素早くヒメノの手から紙を奪い取った。
取り返そうとするヒメノの努力は虚しく片手で抑え込まれ、ターレスは短冊を眺めた。
「ちょ、ちょっとターレス先生!!」
「良い子にしてろ」
『ターレス先生と宇宙が見たい』
「………………」
「………………」
短冊に書かれていた願いごとに、ターレスは何も言わない。
呆れられたのかもしれないと思いながら、ヒメノが恐る恐るターレスを見上げると―――彼は、小さく笑った。
「ヒメノ」
「は、はい」
「行くぞ」
唐突なターレスの言葉に、ヒメノの口から、「えっ」と小さく声が漏れる。
「……その程度なら、オレが叶えてやる」
ターレスはそう言って、唇の端を持ち上げてみせた。
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