クリスとヤムチャ先生
「あ、いーけないんだ」
白い煙を辿るようにして顔を出した生徒に、ヤムチャは軽く目を瞬かせた。
クリスは無邪気そうな目をくるくると動かして、「身体に悪いですよ」と笑ってみせる。
「俺は大人だからいいの」
ヤムチャは意にも介さずに、煙草を指に挟んだまま揺らす。
白い煙がゆらゆらと宙を漂い、空気に紛れ消えていった。
クリスはそれをしばらく眺めてから、不意をついて煙草を掠め取った。
「あ、おい」
ヤムチャが咎めるのも聞かずに、クリスは吸いさしを咥え、煙を吸い込む。
そして、思いっ切り咳き込んだ。
「げぇっほげほっ!けっ、けむた!」
涙目になるほど咳き込むクリスを、ヤムチャは呆れたように見遣る。
「お前、まさか吸ったことないのか?」
「げほっ……サイヤ人は、煙草吸っちゃいけないんですよ」
そう言って、クリスは再び煙草を咥える。
「戦士としての寿命が縮むから。ま、気にせず吸う人もいますけど」
今度は咳き込まなかったらしい。
教え子に喫煙を教えてしまったことを複雑に思いつつ、ヤムチャは、
「……お前って、一応戦闘民族なんだな……」
と、前々から思っていたことを、ぽろりと口にした。
「一応ってなんですか、一応って」
さすがに少しショックだったのか、クリスは拗ねたように言った。
「まあ、サイヤ人らしくないとはよく言われますけど……」
「あー、そういう意味じゃなかったんだが」
失言だったな、と反省しつつ、ヤムチャは何とかフォローの言葉を探す。
「サイヤ人らしくない、と思ってるわけじゃない。俺は、悟空を知ってるしな」
クリスは何度か瞬きして、ヤムチャの顔を見つめ直す。
「……それって褒め言葉だったりします?」
「悪かったな、上手い例えが思いつかなくて……」
「へへへ、ありがとうございます」
どうやら機嫌を直したらしいクリスは、煙草を咥えたまま上下に揺らした。
「まだ吸うのか?」
「もうちょっと……いやでもまずくないっすか、これ」
灰が落ちそうになっているのを見兼ねて、ヤムチャがポケット灰皿を差し出してやる。
クリスはその意味に気づいたらしく、慣れない手つきで灰を落とした。
「先生、好きなんですか?煙草」
「好きって言うか、もう癖だな……」
ふぅん、と、クリスはよくわかっていない顔で、もう一度煙草を咥えようとした。
そのタイミングを見計らって、ヤムチャは声を掛けてやる。
「なあクリス」
「はい?」
きょとんとするクリスに、ヤムチャは真面目な顔で言った。
「……間接キスってやつになってるわけだが、わかっててやってるんだよな?」
「ぶっ?!」
クリスが煙草を取り落とし、あからさまに動揺し始める。
「い、いやあのおおお俺そっそういうつもりじゃなくてえっとあのあのえっとあの」
「お前、本気で気づいてなかったのか……?」
「ご、ご、ごめんなさい!!!!!」
クリスは勢い良く頭を下げると、耳まで赤くして踵を返し、さらに勢い良く飛んで行ってしまった。
残されたヤムチャはそれを見送ってから、一つ溜め息を吐く。
クリスが落とした吸殻を踏み潰してから拾い上げ、ポケットに仕舞いこんでいた箱から、新しい煙草を一本取り出した。
「……からかい過ぎたな……」
実はまだ口をつけていなかったんだと、後で言ってやることにしよう。
そういうことにしておいた方が、良い気がした。
「アルバ!!!!!!!!!!!!間接キスの詫びって何でしたらいいと思う!!!????婚姻届か!!!?!??!!??!?」
「声がでかいし話が見えないしとりあえず早まるな」