未来師弟(コントン都時空)
悟飯の左手にきらりと輝くものを見つけて、ブロッサムが興味深げに目をぱちぱちさせた。
「悟飯先生も指輪とかつけるんですね」
言われて、悟飯も自分の左手を見る。
「ああ、これかい?」
と、悟飯は照れ臭そうに薬指を眺めた。
「自分で買ったわけじゃなくてね……トランクスが、虫除けにってくれたんだ」
自分には必要ないと言ったものの、やや強引に手渡されたそれを無下にすることも出来ず、悟飯はひとまず身に着けていた。
本音を言えば、トランクスからこういうものを貰ったのは初めてで、嬉しかったのもあるのだが。
「虫除け!」
ブロッサムのポニーテールがぴょこぴょこと跳ねる。
「聞いたことありますよ。もうパートナーがいるって周りに伝える目印なんですよね」
「うん、まあ……でも、」
悟飯は一瞬言葉を途切らせると、少しだけ指輪に触れた。
「……これはただの飾りみたいなものだよ」
「そうなんですか?」
ブロッサムの無邪気な赤い瞳に、悟飯は黙って苦笑する。
トランクスは自分を心配してくれただけで、悟飯がほんの少し期待してしまったような、そんな意味は、きっとない。
少なくとも、悟飯はそう思っていた。
「ふーん?」
悟飯の表情を返事と受け取ったのか、ブロッサムは軽く唇を尖らせた。
「でも、先生なんか嬉しそうですね」
「えっ?そ、そうかな……」
「そうですよ」
楽しそうに笑うブロッサムに、悟飯は照れ臭そうに頬をかく。
「と、とにかく……おしゃべりは、これくらいにして。そろそろ、今日の修行を始めようか」
「はいっ!よろしくお願いします!」
*****
「えっ、着けててくれたんですか、悟飯さん」
「うん。なんか嬉しそうだったよ」
「そ、そうですか……!」
刻蔵庫を出たところでやけに盛り上がっているトランクスとブロッサムを目にし、マヒロは首を傾げた。
「何の話だ?」
「マヒロ先輩!」
ブロッサムの顔がぱっと輝く。と、同時に、トランクスの顔がなぜだか慌て始めた。
「トランクスさんが未来の悟飯先生に指輪あげたんだって。虫除け?って言ってました」
「…………ほーう」
マヒロは目を細めて、ちらりとパートナーに目をやった。トランクスは全力で目を逸らす。
「? マヒロ先輩?」
「ん、いや……そのことはあまり吹聴するなよ。意味が無くなってしまうからな」
「はーい!」
ブロッサムは素直に返事をした。
良い子だ、とマヒロは彼女の頭を撫でてやる。
「そう言えば、お前のことを老界王神様が探していらしたぞ。刻蔵庫にいらっしゃるはずだ」
「わかりました、行ってきます!」
「あ、ブロッサムさん、ありがとうございました!」
走っていくブロッサムに、トランクスは急いで礼を伝える。
ブロッサムは軽く手を振ってから、刻蔵庫に入って行った。
「……さて」
と、マヒロは改めてトランクスに目を向ける。
「な、なんですか」
「いや?」
ばつが悪そうな顔をしているトランクスに、マヒロは喉の奥で笑う。
「相変わらず、まだるっこしいことをしているな、と」
「仕方ないじゃないですか……」
トランクスは拗ねたように唇を尖らせた。マヒロに対してだけ、彼はたまに幼い顔を見せる。恐らくは信頼のためだと思うが。
「先生方はずっといられるわけじゃないんです。……告白なんかは出来なくとも、せめて少しぐらい、……」
「お前がいいなら構わんが」
マヒロは呆れたように目を細める。
「欲しいものに唾だけつけて放っておくような、行儀の悪い真似をするのはどうかと思うぞ。男なら諦めるかモノにするか、潔く決めろ」
トランクスが言葉に詰まった。
マヒロは小さく笑って、
「ま、お前が一番分かっていると思うが」
と、付け足した。
「……マヒロさんは、どうなんですか」
「わたしか?」
憮然とした表情のトランクスに、マヒロは笑ってみせる。
「わたしはお前と違って欲がないからな。そもそも欲しいと思わんなら求めんだろ。そういうことだ」
「貴女も貴女で大概だと思いますが……」
と。
不意に時の巣とコントン都を結ぶ扉が揺らめいて、人影が見えた。
その姿を認めて、トランクスの顔が輝いた。
「ごっ、悟飯さん!」
慌てて走り出すパートナーの背中を、マヒロはやれやれと見送った。
「トランクス。仕事中かい?」
「いえ、今は空いてますけど……」
「そうか。いや、貰ってばかりでは悪いなと思って……深い意味は無いんだけど……」
悟飯が何かを取り出し、トランクスが驚いているのが見える。
会話の流れからして、中身は大方察することができた。
―――さっさとくっつけばいいのに。
マヒロは二人の様子を眺めながら、小さく溜め息を吐いた。
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