葵は日々、双児宮で過ごしている。

居住区の掃除や料理を担当し、ハウスキーパーのように働いていた。

彼女が来てからというもの、宮の雰囲気は明るくなった。

居住区については好きにして良いと兄達が言ってくれたので、少し明るい雰囲気を出してみた結果だ。

サガもカノンも自室以外のインテリアにこだわりなど無かったのだ。

彼女に一任してから、彼らも居心地が良くなったリビングに長居する事が多くなった。


「あ、そろそろ買い出しに行かなくちゃ。」


聖域の一般市民居住区には、毎日市場が立つ。

葵はほぼ毎日、同じ時間に市場へ出かけるのだ。

時々、アルデバランや童虎が丹精した野菜をお裾分けしてくるのだが、慣れ親しんだ市場の商人達から購入する食材も美味しいのだ。

リビングのテーブルに買い物に行く書置きを残し、買い物カゴを手にして表を見ると、少し黒い雲が出ている。


「雨かもしれないわね…。傘も持って行きましょう。」


準備を整えた葵は、今日の夕飯のメニューを考えながら双児宮を後にする。


（カノン兄さんが昨日、美味しそうなタコを海界土産だって持ってきてくれたから…。グリルかフリッターにしようかしら。）


サガもカノンも葵の作った料理をいつも美味しいと言ってくれる。

もちろん、それは本当に美味しい。（１２宮屈指の料理上手、デスマスクとシュラの素直な講評でもある。）

素朴な材料でも美味しい食事を出して、日々の活力にしてもらえればと葵は思っている。

市場に到着し、馴染みの商店で目当ての食材を買い込む。


（新鮮な食材だし、帰って早速調理しなきゃ。）


双児宮への帰り道、とうとう雨が降り出す。

葵は持っていた傘を開き、荷物を抱えなおして再び歩き出した。