第１話「傷付いた女神」


それは、聖域にある少女が来た頃に遡る話。

その少女は城戸葵、城戸沙織の妹である。

妹といえども血の繋がりは無いが、２人は仲睦まじい姉妹として過ごしていた。

そして、葵にはもう１つ沙織と繋がりがあった。

彼女には沙織と同じく神格が宿っている。

その神格の名はペルセフォネ、ギリシャ神話では春を司る女神である。

ペルセフォネの父は大神ゼウス、母はゼウスの姉にして妻、オリンポス１２神の１神、大地の女神デメテル。

そして、夫は冥界の王ハーデス。

つい先日、地上を巡っての大きな聖戦を戦った、いわばアテナの最大の敵の妻だというのだ。

葵が聖域を訪れた事によって、聖闘士達は次なる聖戦が始まるのではと危機感を抱いていた。

夫の仇討ちを仕掛けに来たのか、オリンポスから斥候を命じられたのか。

どちらにしろ、ペルセフォネは今の聖域では歓迎されざる客だった。

葵が聖域に来た事を喜んだのは沙織だけである。

ハーデスとアテナの深すぎる因縁、気が遠くなるほど繰り返されてきた聖戦の傷跡は、思ったよりも聖闘士たちの心に刻まれていたのだ。

黄金聖闘士たちは葵の存在を警戒し、沙織の近辺に災いが起きないよう、常に葵の行動を見張る事にしていた。

それゆえか、葵と接する態度は友好的というにはあまりに程遠く、冷淡であった。

例えば、話しかけられても返事は短く、すぐに葵の元から離れていく。

少しでも聖域の決まり事に触れるような事をすれば、例え沙織の妹であろうとも厳しく叱り付けたのである。

黄金たちのあまりに冷たく厳しい態度に、葵は自分が悪いのだからと自らに言い聞かせていたが、彼女の笑顔には徐々に陰りが出始めていた。