聖域へ戻ると、普段と同じような光景が広がっている。

皆、葵が消滅した事など気付いていないので無理もない事だが。

教皇宮に辿り着いた沙織達は、円卓の間に誰も近付くなと女官達に言いつけ、閉じこもる。

よほど重大な事を話し合うのだと思った女官達は、茶だけを用意して皆下がっていった。

しかし、円卓の間は水を打ったように静まり返り、重い空気がその場を支配している。


星矢「沙織さん…。」


そんな中、乾ききった声で星矢が小さく呟いた。


沙織「何ですか、星矢…？」

星矢「ペルセフォネの依り代だった葵は…、人間、城戸葵はどうなるんだ？」


その問いかけに、沙織は俯きながらも説明する。


沙織「城戸葵は魂も肉体も、ペルセフォネの魂と共に消滅してしまいました…。もう、甦る事はできないでしょう。魂が消滅した為に、ハーデスの管轄である冥界へ行く事も叶いません。ペルセフォネは神の魂ゆえに再び転生する事はできるでしょうが、人間である葵自身は…もう二度と生まれ出る事は無いでしょう…。」


生まれ変わる事もできない、そう宣告された事でさらに場は重い空気が漂っている。


冥王「魂だけでも冥界へ来ていれば、そなたらの大半ができたように甦る事もできるだろうが…。魂までも消滅しては余の力も及ばぬ…。」


ハーデスはそう言うと、円卓を強く叩いた。


冥王「また、また…死なせてしまった…。」


ハーデスの瞳に涙が浮かんだ。


冥王「クロノスの力で過去に戻ってから、余は少しずつ記憶が戻ってきた…。アテナ、ポセイドン、双子神もその筈ではないか？」


ハーデスの問いかけに異を唱える者は居ない。


冥王「我らは神でありながら、同じ過ちを幾度繰り返せばよいのか…。失ってはならぬ者を失い、後悔をして…。今度は、ペルセフォネの依り代となっていた城戸葵まで失ってしまった…。あの愛らしい笑顔を見る事は、もはや二度と叶わぬ…。」


その後、冥界と海界の代表達は自分達の世界へ戻っていった。

その後姿は、まるで葬列のようだった。