第１１話「失われた春。」



ハーデスの腕の中からペルセフォネが消滅して数刻。

皆が地に座り込んだまま、動かない。

気力が全て失われ、新たに湧きおこって来ない。


アベル「何という事だ…、何という…。」

沙織「アベルお兄様…。」

アベル「モイラたちよ、何故、あの子にこのような過酷な運命を与えたのだ…！　何故…。」


モイラ、それはゼウスですら干渉不可能な運命の三女神であり、３人で過去･現在･未来を司る。

アベルは可愛い妹をこれ以上不幸にしたくなかった。

神話の時代に起こってしまった悲劇を再び繰り返さない為に、こうして地上に舞い降りてきたというのに…。


海皇「…アベルよ、一度天界に戻り報告してくれぬか。事の顛末、そして…クロノスを封印した壷が消えている事もな。」


ポセイドンの指摘を受けたアベルは驚いてその場を見渡すが、確かに壷は消えていた。

ペルセフォネの消滅と共に消えたのか、いつの間にか天界へ運ばれていったのか判断できない。


アベル「承知しました…。伯父上たちは如何なさいますか…？」


ふらつく足に気合を入れ、アベルは立ち上がる。


沙織「一度、聖域へ帰りましょう…。今のまま自分達の世界に戻れば、皆が心配するでしょう。いずれは皆に報告しなければなりませんが…。」

アベル「わかった。では…私は天界に戻るとしよう…。」


そして、アベルを見送った沙織達は一路聖域へ戻っていった。