冥王「もうよい…、もう、やめるのだっ…、ペルセフォネ…。」


苦しげに出された声の主は、冥王ハーデス。

死の女神の動きは、その声と共に止まってしまう。

彼女の身体を優しく抱きしめているハーデスの肉体からは、先ほどの攻撃をモロに受けてしまった影響か、大量に出血していた。


《ハーデス…！？》

ラダ「ハ、ハーデス様ぁ！」

ミー「何という無茶を！」

アイコ「お手当てを！」


三巨頭は慌ててハーデスに駆け寄ろうとした。


冥王「来るな！！　来ては、ならん…！　下がるのだ。」

タナ「ハーデス様、しかし！」

冥王「下がれ！　冥王たる余の命ぞ！？」

ヒュプ「ハーデス様…。」


ハーデスは冥界勢や他の者を止めると、死の女神に語りかけた。


冥王「ペルセフォネ、お前が死するほどの攻撃を与えたのは他ならぬ私だ…。他の者達に非は無いのだ…。殺すならば私を殺すがいい。愛する妻の分身であるお前に殺められるなら…それこそ本望ぞ…？」


苦しいはずなのに、微笑みながらハーデスは己の覚悟を示した。

言葉だけの覚悟でない事を示す為にも、大鎌の切っ先を己の首に当て、目を閉じた。

大鎌を動かせば、間違いなくハーデスの首は落ちるだろう。

彼の覚悟が本物と知った死の女神は、驚愕の表情を浮かべている。

しかし、この場に居るはずの誰も彼を助けようともしない事にも驚いた。

その顔を見渡せば、皆黙って事の顛末を見届けるだけ。

彼らは分かっていたのだ、死の女神の気持ちを。

本当は、死を司る力なんていらないと思っている事、好き好んで戦いをしているわけでもない事、本当は…春の女神と同じように優しい女神という事を。


《…よかろう。ならば、冥王ハーデスの命、この妾が間違いなく頂くまでだ！！！》


死の女神は大鎌を持つ手に力を込め、ハーデスの首を掻っ切る構えを取った。