葵がテレポートした先は教皇宮。

てっきり葵が冥界に留まると思っていた沙織が彼女を出迎えようとしたが、その場には既に葵の姿はなかった。

葵はすぐに自室へ戻り、部屋のドアに鍵をかけて閉じこもってしまった。

そのまま力なくベッドに倒れこむ。

脳裏に浮かぶのは、先ほどのハーデス神殿での出来事。

ハーデスが居て、双子神が居て、三巨頭が居て…。

そこまではいつもの風景、いつもの優しい冥界の仲間たち。


（あんなキレイな女の人、知らない。冥界で見た事無い。誰なんだろう、私も知らないあの人は？）


葵は必死に考えた。

過去、冥界で過ごした時の記憶も掘り返したが彼女に該当する記憶は無い。

そして、達した結論はあまりに残酷だった。


「もしかして、ハーデスの恋人…？」


ハーデスはオリンポスの中でも美しい男性。

彼に心奪われた女神は数知れない。

そんな彼は幼い自分に惹かれて、妻にしてくれた。

今でも、妻と言えどもあまりに幼い自分をとても大切にしてくれていて。

聖域でも、海界でも、天界でも、彼の溺愛ぶりは有名だった。

だけど、ハーデスは大人だ。

子供の自分では満たされない事の方が多いはず。

妻なんて名ばかりで、彼を妻として支えてあげられていない事が多いはず。

そんな事が耐えられず、大人で美しくて魅力ある女性に心変わりをしてもおかしくは無い。


「ふぇ…、ふぇええん……っっ。」


葵は自分が出した結論にショックを受け、泣き出した。

ハーデスは悪くない。

何故、自分はもっと大人じゃないんだろう？

どうして、こんなにも幼いんだろう？

もっと、ハーデスに相応しい存在でありたかった。

そう思いながら、葵は泣き続けていた。

やがて、夜。

葵はあれから延々と泣き続け、心配してきた沙織にも会う事無く、部屋に誰も入れずひたすら泣いていた。

そして、泣き疲れ、夕食をとる事無く眠ってしまう。