アベルが沙織たちに教えてきたペルセフォネの秘密は何も偽っていない、完璧なる事実。

しかし、全てを教えてきた訳ではない。

遠き神代の時代に起きた、あまりに大きく悲しい出来事。

それを繰り返さぬ為に造られた事実も存在するのだ。

沙織がアベルの話に微塵も疑問を抱いていなかったのは奇跡だろう。

だが、それもゼウスたちの記憶封印の賜物なのだろうが。

ペルセフォネを特に愛した５人の神達の記憶をゼウスの名において封印したが、それはゼウスのせめてもの優しさ。

遠き遠き未来を見越して行われた記憶の封印。

その未来は今、ここにある。

あのあまりに悲しすぎる出来事を思い出せば、５神とも無事では居られまい。


ゼウス『それを承知でなお、お前は記憶の封印を解けと申すか？』

アベル「御意。」

ゼウス『我が娘、アテナが司る知恵の力を借りよと申すか？』

アベル「はい。他の神々も皆、ペルセフォネを愛しております。いざとなれば良い考えや方法を思いつくかもしれませぬ。人間の言葉には三人よれば文殊の知恵という物がございます。その言葉を信じてみませぬか？」

『うぅむ…。』


ゼウスの考え込む声がアベルに聞こえた。


アベル「ご決断を、我が父ゼウス。」


アベルはいつにも無く、真剣な眼差しで天空を見上げた。