第５話「真実と予兆。」



ゼウス『そうか、やはりアテナの記憶は完璧に封じられておるな。』

アベル「はい。先ほど、海界と冥界にもコンタクトを取った模様ですが、ポセイドンもハーデスも同じようです。」


アベルはエリシオンから天界に帰ったゼウスと交信をしている。

どうせ、全ての様子を見ていたのだろうが、念の為、沙織たちと実際に話したアベルの意見も聞きたかったのだろう。


ゼウス『大儀であった、アベル。』

アベル「ゼウス、他の十二神の方々は？」

ゼウス『うむ…、やはりデメテルのショックが大きいようだ。エリシオンに居った時からの嘆きはいまだ収まらぬ。女神達もデメテルに付き添っておる。男神達もまた、何とか出来ぬものかと模索しておる最中よ。』

アベル「無理もありますまい。デメテル様は慈愛溢れる大地の女神であります故。それが自らの腹を痛めてお産みになった娘の大事。あのお優しいデメテル様の悲しみはいかばかりか。」

ゼウス『デメテルを妻にする時、このような事態を余は案じておった。天界の大神たる余とガイア直系の力を継ぐデメテル。その力合わされば、力が強すぎる子が産まれると。しかし、デメテルはどうしても子が欲しいと言った。余もデメテルの子が欲しいと言った。この事態を引き起こしたのは、余たちだ。』

アベル「ですが、ペルセフォネはその恐ろしい封印の真実とは裏腹にオリンポスで最も愛らしく、清らかで、心優しい女神になりました。どんな神々の諍いがあろうとも、あの子がひとたび仲裁に入れば収まらぬ諍いなどありませんでした。」

ゼウス『…それ故に、皆苦しむ。封じられたもう１人のペルセフォネが目を覚まし、全面戦争にでもなればどうしたら良いのか…。最悪、余がペルセフォネと対峙し、父としての感情を抹殺し、この世界を守らねばならぬ。』


苦悶の声になるゼウス。

威厳に満ち溢れ、誇り高き天界の長にとっても、ペルセフォネは大事な大事な娘。

それと戦う事になると言うのは、何という悲劇であろうか。


アベル「ゼウスよ。あの者たちの記憶封印を解く事は出来ませぬか？」

ゼウス『何？』

アベル「アテナ、ポセイドン、ハーデス、タナトス、ヒュプノス。彼らの記憶を戻すのです。」

ゼウス『何ゆえか？』

アベル「悲しき過去を繰り返さぬ為に。」