第１話「女神の涙。」



鬱蒼としている冥界に、突如として暖かな小宇宙が現れた。

その小宇宙の大きさは並みのものではなく、神の域に達していた。

その小宇宙の持ち主はジュデッカに突如として現れ、そのまま神殿へ入る。

しかし、誰もがその小宇宙の持ち主に警戒していない。

むしろ、その持ち主の来訪を心待ちにしていたのだ。

もちろん、冥界の王たる冥王ハーデスも。

そして………。


「こんにちは。」


冥界の重鎮たちが集う執務室に、可愛らしい声が響いた。

そして、その場を取り仕切るハーデスの代理人、パンドラが席を立つ。


パン「葵、よう参ったの。」


葵、それは冥界において何者にも代えがたき、幼い女神。

春を司り、世界に命萌える季節をもたらす優しい女神。

その神格の名はペルセフォネ、冥王ハーデスが唯一愛したと言われる妻。

転生を果たしても、その愛らしさは変わらずにいる。

現在のアテナ、城戸沙織の妹であるゆえに現在は聖域に住まいしているが、彼女はその幼い身で聖域大使の大任を任されている。

また、冥界だけではなく、海皇ポセイドンの治める海界、近頃では父であるゼウスが治める天界にまで赴くようになり、ますます忙しい身の上になりつつあった。

各界で溺愛されてはいるが、けして鼻にかけず、常に自然のまま振舞い、自分に出来る事を精一杯頑張っている葵に皆が好感を寄せ、彼女を悲しませない為にも争いは絶対に起こすまいと、ひたすら平和路線を突き進んでいた。

そのおかげで、聖域、海界、冥界、天界は過去に例が無いほど友好関係を結んでいた。

そして、今日はアテナ沙織のお願いで、ハーデスに親書を渡しに来たのだ。

もちろん、１日だけならお泊りしてきても良いというお許し付きで。