夜になり、ポセイドン、海将軍、テティス、カノン、カミュ、ミロはポセイドンの私室に会していた。

葵に案内する所をピックアップしている所で、葵の記憶に鮮明かつ強烈に焼き付いている所は何処かというのを皆で話しあっている最中なのだ。

海界の者は今まで案内した場所を、聖域の者は聖域で楽しそうに話してくれた事を頼りに候補を挙げていく。


海皇「しかし、ショックが隠せぬ…。」

テテ「ポセイドン様？」

海皇「会えば、私に飛んで抱きついてきておったペルセフォネに、あんな風に他人行儀に接されると、何か物悲しい…。表情も乏しいようだ。」


まだ遠い遠い神話の時代。

オリンポスでも最年少の女神ペルセフォネは、誰よりも心清く、誰よりも優しい女神だった。

動物や植物を愛し、神も人間も平等に愛していた。

幼さも色濃く残ってはいるものの、その表情の豊かさは非常に愛らしく。

そして現代に転生し、彼女が宿った葵という少女もまた幼く、愛らしく、心清らかな少女だった。


海皇「あの愛らしさを今一度、取り戻したいものだ…。それを一番強く願うのはハーデスであろう。あれは誰よりもペルセフォネを愛しておったからな。ゼウスから落ちるであろう雷も、天界上げて冥界へ攻め込んでこようとも、ペルセフォネが傍に居れば微塵も後悔はせぬと申しておったのに。」


以前であれば、例え兄弟でもこんな家族愛のこもった台詞を吐きはしなかった。

まるで、赤の他人の如く鼻で笑っていた事だろう。

ペルセフォネの出現により、その冷たい感情は溶けて、今では神話時代に増して兄弟仲は良くなってきている。

そして、姪である地上の守護神アテナとも完全なる和解を結ぶ事が出来た。

その橋渡しをしているのは他ならぬペルセフォネ。

争い事を徹底して嫌い、その和解の為に幼い身で奔走している姿を見れば、誰もが己の犯した過ちに気付くというものだろう。


海皇「聖域でのペルセフォネの様子は如何なものか？　海龍。」

カノン「はっ。やはり、件の女官による心のダメージは非常に大きく、今では滅多に表情を変えられません。以前であれば、見舞いに花束を持っていけば喜んでくれましたが、今では…。」

海皇「あの女官、人としての寿命を迎えて冥界へ赴けば、ハーデス自ら憤怒の裁きを与えるであろうな…。」


ポセイドンは憂いの目で天井を見上げた。