必死で葵を宥める聖闘士、神たち。

それを見ながら、エルは内心焦っていた。


エル（ど、どうして私が昨夜言った言葉をあの娘が！？　こ、このままでは私の立場が危うい！　しょうがない、ここは出直しね…！）


エルはゆっくりと部屋を出ようとする。

しかし、それを見逃さなかった者が居る。


冥王「そこの女官、待て。」


その言葉に全員の視線がエルに注がれた。


エル「何で、ございましょう？」

冥王「何処へ行く？」

エル「皆様に、お茶を持ちしようと思いまして。」

冥王「…そなた、何を知っている？」

エル「私は、何も。」

冥王「余は冥王ハーデスぞ？　人間如きの考えを知らぬと思うてか！　この一連の騒動、裏で仕組んだは貴様であろうが！！」

エル「！！？？」


エルが見せた何故わかったのだという一瞬の表情。

誰もがそれを見逃さなかった。

しかし、エルは見苦しくもなおもシラを切ろうとする。


エル「い、言いがかりはお止しください！」

冥王「不審であった。聖域を訪ねる時に、常に思っておった。」


ハーデスは泣きじゃくっている葵を愛しそうに見た。


冥王「そなたの前任の女官が在りし時は、葵は信頼に満ちた目でその女官を見ておった。しかし、そなたに代わってからは怯え、悲しみ、そんな目でそなたを見ておった。最初は記憶を失った上でのものと思っておったが、そうではなかったのだな。」

海皇「それは、余も感じていた。それに、時々感じたそなたがペルセフォネを見る時の視線。あれは仕える者に向ける視線ではない。…邪魔者を見る時の卑しい目だ。そなた、以前からペルセフォネをそう思い、彼女だけに冷たく接していたのではないか？　そして、他の者にはさも優しく気遣いの行き届いた優秀な女官であると印象付けていたのだろう？」

エル「っ！？　ふ、不愉快ですわ！　私、下がらせていただきます！」


エルはその部屋から出ようと試みるが、女官が聖闘士を出し抜く事など不可能。

すぐに捕らえられ、通信鏡の前に引っ立てられた。

そして、全てを自白したのだ。

想いを寄せる聖闘士が居た事、その聖闘士が葵に夢中であり、葵が居なくならない限り彼の気持ちが自分に向く事は無いと。

そのあまりに身勝手な恋情で、エルは葵を聖域から追い出そうと画策していたのだ。

それを知った皆は、怒りに震えた。