葵は翌日から、また元のように表情を変えない人形のようになっていた。

つい前日までは明るい表情に戻ってくれたのに。

何かあったのだろうかと皆が尋ねてみても、葵は返事もせず、ただ黙り込んでいるばかり。

そんな葵を見て、エルは１人で冷たくほくそ笑んでいた。


エル（そうしていればいいのよ、役立たずのお人形さん？　ずっとそうしていれば、愛想をつかされて貴女の事なんて誰も見向きもしなくなるわ…。あのお方もね？）


エルの冷たい笑みと心の声に気付く者は誰も居なかった―――。


自分の存在意義が見出せないまま、葵は自問自答していた。

自分は本当にここに居るべきなのか、否か。

エルの言葉が頭の中をグルグルと回り、自分の存在意義を正す。

だけど、どう考えてもエルの考えに同調してしまう自分が居た。

今まで、あんなに冷たい自分に向けられる言葉を聞いた事が無いから。

それが、どれほど自分が甘やかされてきたのかを如実に語る証拠だった。


（私、やっぱりここから出て行った方がいいんだ…。私が居ても、皆に負担かけちゃう。ポセイドンさんもハーデスさんも、自分の世界のことをおいてでも私を見に来てくれる。それだけ、向こうのお仕事も溜まっていくのに…。）


葵は聖域を去る決意を固めた。

何処へ行けばいいのかわからない。

だけど、もう此処には居られない。

自分さえ居なくなれば、皆は与えられた使命をまっとうできるんだと信じて疑わなかった。