そして、今日も葵の部屋からは明るい笑い声が聞こえてくる。


「クスクスッ、そんな事があったんですか？」

冥王「あぁ、天にも地にもその名を響かせた大神ゼウスともあろう者が、お前の可愛がりようと言ったら…。下手に手を出せば、怒りの雷が降ってくるからの。実際、何人か仕置きで雷を喰らった者もおる。」

沙織「オリンポスの一族全て、貴女をとても愛しておりました。そして、あなたもまた、その想いに応えてくれていたのです。」

冥王「嫉妬深い事で高名なゼウスの正妻ヘラですら、お前を溺愛しておった。」


遥かなる昔話を葵に聞かせているうちに、話題は彼女の周りにいたオリンポス神族が葵にどういう感情を持っていたかに移っていた。

ギリシャ神話でも有名な女神ヘラの癇癪はあまりに有名。

しかし、ヘラが葵の神格であるペルセフォネを溺愛していた。

その台詞に、同じ部屋に控えていた闘士たちも驚く。


ラダ「女神ヘラといえば、ゼウスが浮気する度に、その浮気相手に非常に狡猾で残忍な復讐をする事で有名ですが…。」

冥王「うむ。しかし、ペルセフォネの愛らしさに骨抜きにされたようでな。ペルセフォネもヘラに懐いておった。」

「いつか、ゼウスのお父様やヘラ様にお会いできるかな？　会って、何かを思い出せるかな？」

沙織「慌てなくても良いのですよ、葵？　急いても良い事はないでしょう。ゆっくりと思い出していきましょうね？」

「ありがとう、沙織お姉ちゃん…///」


未だ記憶は戻ってはいない。

しかし、その天性の明るさと優しさを取り戻しつつある葵に、一同は胸を撫で下ろしていられた。

そんなある日、沙織が２人の女官をつれて葵の部屋を訪れた。

１人は葵専属のお世話係の女官・リオで、記憶の在りし日は葵は彼女を姉のように慕っていてた。

もう１人は見た事がない女官で、恐らく彼女の挨拶回りをしているものと思われた。


沙織「葵、今日は大事なお話をしに来ました。」

「何ですか？」

沙織「リオが結婚する事になり、それを機に女官職を辞める事になりました。」

「そうなの？　リオさん。」

リオ「はい、本来ならばこの身ある限り葵様にお仕えしようと思っていたのですが。」

「でも、結婚するんですよね？　おめでとうございます///」

リオ「葵様、ありがとうございます///」

沙織「これからは、このエルが貴女専属の女官となります。」

エル「エルと申します、葵様。」

「よろしく、お願いします。」