最初こそ、葵をいぶかしむ者も居た。

ハーデスの差し金ではないかとか、ゼウスの間者ではないかとか。

しかし、それもほんの僅かなひと時に過ぎなかった。

彼女は命萌える春の女神に相応しい、暖かな小宇宙の持ち主だった。

自分にも何か聖域の為に出来る事を考えて、デメテルから受け継いだ力の加護を聖域に与えた。

聖戦や風化でメチャメチャになった場所を探しては、大地の加護、自然の加護を与える。


「頑張ってね、もう少しで聖域も元に戻るからね。私の力で元気になって。」


傷つき、苦しんでいる動物たち。

今にも朽ちそうな草木にも同等に注がれる小宇宙。

慈悲深く、動物や植物を限りない愛情で癒す姿はアテナにも劣らぬ神聖さを持っていた。

そして、いつしかこの幼さ残る少女に聖闘士たちは惚れこんだ。

彼女こそ、『聖域の花』だと……。

恋愛を推奨する沙織でも、妹の事となれば話は別。

可愛い可愛い妹に虫が付かない様、黄金聖闘士のアルデバラン、ミロ、シュラを葵の保護隊として任命した。

葵に余計なちょっかいを出そうものなら、物陰から黄金の野牛の角やら、真紅の衝撃やら、聖剣が飛んでくる。

だったらその３人は葵にちょっかいを出さないのかといえば、出さなかった。

何というか、葵の事を妹のように過保護すぎるほど甘やかしている。

沙織もそうなるように人選したのはさすがだ。

さらには、女性聖闘士の魁でもある魔鈴とシャイナも葵を猫可愛がりしていた。

少しでも邪な気持ちで葵に触れようものならば、鷲の蹴りと帯電した爪が飛んでくる。

そして、歳近い青銅たちもこの可愛らしい女神に心を奪われつつあった。

そんなこんなで、聖域は沙織と葵を中心に少しずつ平和を取り戻している。