瓦礫の中、僅かに出来た空間の中で葵は倒れていた。

地面は文字通りに血の海で、身体から力が抜けていく。


「ここまでか…？」


瓦礫の向こうではクトゥルフと聖闘士たちが戦っている。

今すぐにでも加勢に行きたいが、身体が動かなかった。


「あの時と…同じだな…。」


前世の最後を葵は思い出している。

冥界の双子神と対峙し、当時の教皇に禁じ手とされたクレイモアを使い、自分は死んだ。

死の直前、アテナとシオン、童虎がハーデスを封じた事を知り、最早悔い無しと笑って逝けた。

だが、今は違う。


「私はまだ、アテナを…救い出していない…。」


クトゥルフは強い。

残りの聖闘士の力を総動員したところで、勝てるのかどうかわからないほどに。

前世は心残りなど無く、逝けた。

だが、今は…たくさんの心残りがある。


「アテナを救い出し…。」


優しく笑う沙織の顔が瞼の向こうに浮かぶ。


「現代黄金たちを…鍛え上げ…。」


黄金たちの鍛錬する姿、笑いあう姿も。


「三界の永遠の平和の礎を築き…。」


海界と冥界の仲間達の姿も。


「死にきれない…、このままでは…死ねない！」


何とか身体に力を入れようとすると、葵の脳に直接声が響く。