他の皆が恐れおののいているにも関わらず、葵は至ってマイペースにこう進言した。


「技が完成したら実験台…もとい、練習に付き合ってくれ。」


それは限りなく死の宣告に近いもの。


サガ「今、実験台という言葉が聞こえたような…；」

デス「あぁ、俺もそう聞こえた；」

アフロ「私はあまり耐久力が高くないから、思う存分技を振舞えまい。此処は少しばかり頑丈な者が適任だと思うがね？」

シャカ「ふむ、アフロディーテの意見は的確と見ゆる。この中で頑丈な者と言えば…。」


その視線は聖域の常識、倫理の壁、聖域の人格者とまで言われている黄金の野牛、アルデバランに注がれた。


アル「待て待て待て！　確かに俺はこの中で一番図体もでかいし、耐久力や防御力では最高を自負している！　でも、俺１人がそんなに多くの技に耐えられるほど頑丈だと思っているのか！？」

黄金「「思う。」」

アル「お前ら～～～！！！　大体な、頑丈と言うのなら、アイオリアやアイオロスもたいがい頑丈だろう！　兄弟揃って暑苦しいほどの筋肉マニアだぞ！」

ロス「筋肉マニアって、何なんだ；」

リア「アルデバラン、お前よりによって味方を売るような発言をするとは！　もはや男として認めん！！」

ムウ「その台詞、そろそろ違うバージョンを考えたらいかがですか？　飽きている方も相当数見えると思いますけど？」

ミロ「そうだ、カミュ！　お前のフリージングコフィンって黄金数人がかりでも砕けないんだろ？　それを盾にすればお前って防御力は最強って事にならないか？」

カミュ「ぐっ…；！　しかし、ここは山羊座の後継としてシュラが身を持って体感し、己の技として会得するべきではないのか？」

シュラ「フッ、俺はまだ山羊座の奥義エクスカリバ―ですら葵に追いついておらんのだ。その身で更に威力の有る技に取り組むなど、愚の骨頂。此処は殺しても死なんような奴を指名するのが妥当だろう？」

カノン「となれば、自力で二百年以上も生きてきたという、伝説の教皇が適任ではないか？」

シオン「こりゃ、カノン！！　何をぬかすか、お主；！」


押し付け合い、譲り合いが続く中で葵はサラリとのたまった。


「不公平が無いように、１４人全員でな♪」


その言葉に周囲はズーンと絶望に落とされた。

しかし、そこは往生際の悪い奴こそ口がたつ。


シオン「余はアテナから聖域統治を任されておる教皇ぞ？　そのような命の危険に身を投じるなど、とても出来ぬわ。パスイチじゃ。」

童虎「これ、シオン！　何だそのパスイチとは！？　これはトランプではないぞ！？」

デス「そうだ、そうだ！　こういうのは年功序列で棺桶に近い者から行くのが相場でしょうが！！」


次の瞬間、デスマスクはシオンと童虎に鉄拳制裁を喰らって地面とディープキスをしていた。

その間にも、現代黄金たちからもブーイングの嵐が巻き起こったが、葵は更に止めになる言葉を放つ。


「今、此処で私と全力で死合うか、技の練習に付き合うかチョイスしてもいいぞ？」


素晴らしい極上笑顔でそう言うものだから、迫力も極上だ。

シオンはガクンとうなだれて、「練習につき合わせていただきます。」と、細い声で返答したそうな。

そして、今日の鍛錬は終った。


「では、私はこれからアテナの親書を持って冥界へ向かう。アテナは明日お帰りになるそうだから、出来る限り早めに帰る。」

カノン「俺も海界へ行く。用を済ませたらすぐに戻ってくる。」


冥界と海界へ向かった２人を見送ると、黄金たちも解散し、明日戻ってくるアテナ沙織の出迎えの用意を始めた。