夕刻、サガは軽い昼食を取ってから休憩を入れず執務に没頭していた。

夕陽の光が執務室の中に入り込み、そろそろ定時上がりの者は帰る支度を始める頃だろう。

サガがふと視線を上げると、真正面にはパソコンのモニターを見ながらキーボードを叩く葵。

その表情は感情を出す事無く、冷静な目でモニターを見つめ続ける。


サガ（彼女もずっとパソコンを操作していて、疲れているだろうに…。休憩を入れたら良いのだが…。）


長時間にわたりパソコンを操作する事が身体に良くないというのは、機械音痴のサガにだってわかる。

そんな事を思いながらしばらく葵を見ていると、彼女の方が視線に気付いた。


「サガ、どうかしましたか？」

サガ「あ、いや…。」

「…お茶でも淹れましょうか？　それとも、何か軽い食事でも？」

サガ「いや、そうではない。…葵、そろそろ休憩を入れてはどうだ？」

「休憩ですか？　…では、サガもご一緒に。」

サガ「私も？」

「貴方も働きづめですし、少しくらい休憩をしたって誰も咎めはしませんよ。待っていてください、お茶を淹れましょう。」


葵はそう言うと、ティーセットのある場所へ移動する。

しかし、いつも自然な微笑を湛えていた彼女の表情からは笑顔が消えている。

いや、見せてはくれるがそれはあくまで業務的な笑顔だ。

葵がそうなったのはサガの記憶が確かなら、歓迎会をした翌日から。

葵の胸の痛みを彼が知る由もないが、きっかけは間違いなくサガの言葉だった。

葵が淹れてくれるコーヒーは美味しい。

しかし、何故か彼女の笑顔が消えてからというものの味気なく感じるようになった。


サガ（葵の笑顔が…見たい。）


彼の中でも確実に何かが変化し始めてきた。