雨の降りしきる中、もはやマントも役目を果たしていない。

そんな事もお構い無しに、葵はひたすらある丘を歩いている。


「お父さん、お母さん…。」


そこは、両親が眠っている共同墓地。

暗く、雨の降りしきる中の墓地を１人で歩いている姿は、遠くから見れば幽鬼に見えるだろう。

それほど、足元も怪しくてフラフラしているのだ。

目的の墓石を見つけると、葵はしゃがみこんで彫られている文字を愛しそうに撫でる。


「お父さん、お母さん。ごめんなさい。私１人が生き残ってしまって、ごめんなさい。ごめんなさい…っ！」


流す涙も雨に流されて、嗚咽だけが聞こえる。


「頑張ろうと思ったの。お父さんとお母さんの分まで、聖域にお仕えしようと思っていたの。アテナ神殿付きの女官にもなれたの…。でも、でもね…？　もう、無理だよ…。あの日の事が、ずっと頭にこびり付いて離れてくれないの…！」


墓石は何も語らず、ただ雨に濡れるだけである。


「せっかく、アテナ様や黄金聖闘士の皆様が心を砕いて接してくださったのに…！　恐れ多くもミロ様の事、想っていたのに…。酷い事を言ってしまったの、人殺しって、大嫌いって…！　もう、これ以上聖域には居られない…、もう、生きていられないっ…！」


葵は懐から布に巻かれている細長い物を取り出した。

布を取ると、そこからはナイフが出てきた。


「…２人の所へ行っても良いよね…？」


葵は己の首に尖端を向けた………。