そんなある日、教皇宮に仕える女官が体調不良で休んでしまい、仕事がはかどっていない報せを受けた女官長は葵をしばらく応援に向かわせる事にした。


「え…、私をですか？」

女官長「えぇ、貴女が聖闘士様に畏敬以上に恐れを抱いているのは重々承知なのです。ですが、是非とも貴女にと…アテナ様直々のお達しなのです。」

「アテナ様から…？　どうしてなのでしょう？」

女官長「アテナ様のお考えに、私の考えが及ぶわけがありません。ですが、アテナ様も貴女の事をとても心配しておいでです。故に、少しでも聖闘士様達に馴染んでもらえればというご配慮かもしれませんね。とにかく、行っておいでなさい。」

「は、はい…。」


アテナ直々の指名とあれば、断る事なんて事実上不可能。

私は溜息を付きながら、教皇宮の女官詰め所へ向かった。

詰め所に行くと、女官達が歓迎してくれた。

ここの女官にしろ、アテナ神殿の女官達にしろ、皆が私を受け入れてくれるのが救いだった。

私の幼い日の恐怖が身に染みているのを理解してくれて、聖闘士に対して下手をすれば不敬と言われそうな態度をとってしまうのを許してくれるのだから。


「しばらく、お世話になります…。」

女官「こちらこそ、急に応援を頼んでしまってごめんなさい。とりあえず、今休んでいる女官の仕事をしてくれる？」

「はい、どういったお仕事ですか？」

女官「…黄金聖闘士様たちの執務室付きなの。」

「え！？」

女官「重ね重ね、ごめんなさい。書類の受け渡しやお茶の用意、アテナ様へ報告書をあげるのもそうなるわね。…もし、無理そうなら変わるのだけど…。」


しばらく考えたけど、ここで断ればこの人達にも迷惑をかけてしまう。

私は意を決してそれを受け入れる事にした。


「いいえ、私が行きます。本当に無理そうなら、ご相談しますね。」

女官「そう…？　じゃあ、頑張ってね。」

「はい。」


一抹の不安を抱えながらも、私は執務室へ向かった。