アイオロスの所信表明が終わると、コロッセオから再び割れんばかりの拍手が巻き起こった。

アイオリアは目に涙を浮かべ、サガは既に泣いている。

２人とも、それぞれ胸に来る思いがあるのだろう。

アイオロスが教皇に即位する姿を見届ける事は、２人共通の夢でもあった。

隣同士に並んでいる２人は、小さな声で囁きあう。


サガ「アイオリア…。」

リア「ん？」

サガ「すまなかった…。」

リア「サガ…。」

サガ「私は、誰よりもこの瞬間を心待ちにしておきながら、アイオロスを最もこの瞬間から遠ざけた張本人だ…。だが、アテナのご厚情を賜り、こうしてアイオロス即位を見届けられた。私は最早、思い残す事は無いほど満ち足りているよ…。」

リア「それはもう終わった事だ。男なら、過去の事を何時までも引き摺っているようでは駄目だろう？　これからは過去ではなく未来を見据えよう、サガ。」

サガ「ありがとう、アイオリア…。」


その後、教皇アイオロスの治世における新体制が発表された。

前教皇シオンは新教皇アイオロスの教育係兼アテナの相談役、教皇代行者に。

黄金聖闘士の中でも特に教皇を補佐する能力に長けた者、教皇補佐にはサガを。

それらが全て承認された事により、教皇即位式は終了した。

新教皇即位という聖域上げての慶事。

身分高きも低きも、皆が祝杯を挙げて新教皇アイオロスの即位を祝う宴が行われている。

聖域全土から見上げる事が可能な火時計には、慶事の証でもある紅い炎が灯されていた。

教皇宮にある宴の間では、沙織、アイオロス、シオン、黄金聖闘士、海界からの来賓、冥界からの来賓が酒を酌み交わし、気持ち良く酔っている。


冥王「最近、特に思う事があるのだ。」


神々の座る席で、ハーデスがふと呟いた言葉。


海皇「何をだ？」

冥王「気が遠くなるほど遥か古は、我ら三界の勢力がこうして酒を酌み交わす事などありえなかった。しかし、今生ではこのように微笑ましい光景を見る事ができた。…この光景を長きに渡り守っていきたいと思うのは、滑稽だろうか？」

沙織「そんな事はありません。私もどちらかといえば戦専門の神ではありますが、戦いは無いに越した事は有りませんもの。それに、平和は維持する事の方が遥かに難しい。三界の平和を維持する為には、友好と信頼を築かねばなりません。…どうやら、私達を守護する闘士たちはそれを無意識に理解しているようですよ？」

海皇「そうだな…。お互いの世界をより良い世界にして、異なる世界と交流する事でお互いに良きところを学びあい、補い合えればそれで良い。」


目の前では、三界の闘士たちが入り乱れて親交を深めている姿。

それをそれぞれの神が温かく見守っていた。