「聖域には思ったよりもたくさんの子供達が居るのは僕も知っている。でも、彼らは聖闘士としての教育しか施されていないから、表の世界で同年代の子供達が学んでいるような事を彼らにも学ばせたい。子供のうちでも…普通の子供達と同じような事をさせてあげたいんだ。」

カミュ「それは、私も以前から感じていた事です。戦いの知識だけでは、到底人として最低限の知識があるとは言えません。せめて、義務教育レベルの知識は必要かと…。幸い、言語問題は人種の坩堝たる聖域ですから、問題ないと思われます。」

沙織「わかりました。教材の手配は我がグラード財団にお任せ下さい。」

「では、僕から申し上げる事は何もありません。」


沙織はニケを手にして、宣言する。


沙織「今、この時をもって…白竜を正式な射手座後継者に指名いたします。以後、反論は許しません。」


凛とした宣言の声に、シオン、黄金たちは跪く。


沙織「なお、白竜に関しましてはニケの化身である事も考慮し、臣下の礼を取らなくても良い事とします。そして、汚れ役を買ってくれた見返りとして、私も命令における受諾・拒否を自由に選べることとします。」


従神であれ、ニケは神である。

アテナにとってはかけがえのない、無二の存在。

そんなニケに臣下の礼を取らせる必要はないのだ。


「その前にアテナ。僕にはやらなくてはいけない事がある。」

沙織「何ですか？」

「竜の一族に白竜の名前と権限を返還する事。決意が揺るがない内にしておきたい。鏡をお借りしたいけど…。」

沙織「用意させましょう。」

？『それには及ばぬ。』


その場に、少しばかり年老いた人間の声が響く。

それは、この場に居る誰もが一度は聞いた声。

白竜の目前にある石畳の床が波紋を広げるように揺れる。

その波紋の中から、大きな鏡が出てきた。


？『久しいの、城戸嬢？』

沙織「貴方は、黄竜！」