あの子達の前ではにこやかだった表情が、いつものように硬くなっている。


ロス「白竜、どうして俺達の前だとそんな表情になってしまうんだい？」

「そんな表情？」

カミュ「先ほどまで、貴女はとてもにこやかな表情だった。あの子達もそれが作り物で無いとわかっていて、貴女に懐いている。私たちには、見せてはくれないのか？　貴女の微笑みを。」

「さて、どうでしょうか。サガ、僕の身の上はまだ決まりませんか？」

サガ「あぁ。毎日それだけを議題にするわけにもいかないし、まだ詰めきれていない。」

「まぁ、僕にとっては長期休暇のようなものと思えばいいけど。」


白竜は空を見た。

照りつける太陽、けして日向の世界を歩けぬ自分。

そんな自分に笑ってしまいそうになる。


「あの子達も聖闘士になれば、嫌でも人を傷つけ、時には屠らねばならないのでしょう？」

カミュ「我らも、そうして生きてきた。」

「僕もです。僕は自らが生きるためにたくさんの人を屠った。彼らには、そんな血みどろな世界を見せたくないし、体験させたくもないのだけど…。」


汚れを知らぬ綺麗な心のまま大人になる事は難しい。

ましてや、聖闘士は戦う事を宿命付けられた者。


「僕のような思いをするのは、僕１人だけでいい…。あの子達にはせめて、少しでも綺麗な心を長く持っていて欲しいものです。」


悲しげな顔で、白竜は候補生達の未来を憂いた。


カミュ（何という悲しげな顔だろう。なのに、どうしてこんなに魅入ってしまうほど美しく思えてしまうのか。）


彼女の切なさが伝わってくるようだ。


「さて、そろそろ陽も暮れます。教皇宮へ帰りましょうか…。」


白竜はローブを翻し、１２宮への道を歩いていった。