翌日、実験の時間に科学者達が迎えに着たが、葵は頑として実験を拒否した。

しかし、多勢に無勢、大人と子供。

腕を引き抜かれそうな強さで引きずられていく。


「やだ、やだやだ！」

「静かにしろ！　お前はただ、与えられた実験に耐えればそれでいいんだ！」

「パパ、ママ！！　助けて！！」


幼い子供が両親に助けを求めているのに、科学者達は鼻で笑い飛ばす。


「はっ、いくら叫んだ所でお前の両親が迎えに来るものか。お前は大金で売られてきたんだよ、ここにな！」

「今頃はお前の事なんて忘れて、さぞかし豪遊の毎日を過ごしている事だろうよ！」

「お前はな、捨てられたんだよ！！！」


捨てられた。

その言葉を聞いた瞬間、葵の中から熱い何かが込み上げてきた。

血液が沸騰しそうな、理性が弾け飛んでしまいそうな何かが。

それと同時に、窓もなく空調は完璧なコンピューター制御である廊下に風が発生してきた。


「何だ、この風は？」

「クーラーの故障じゃないのか？」

「おっ、おい…！　実験台の様子がおかしいぞ？」


科学者達が一斉に葵に注目した。


「帰る。」

「な、何だと？」

「パパとママの所へ帰る！！」


俯いていた顔を上げた葵。

その表情は今までになく険しく、怒りに満ちているもの。


「そうはさせるか！　せっかく大金を払って買った実験台をむざむざ逃がしてなるものか！！」

「邪魔、しないで！！！」


瞬間、葵は『風』になった。