そこで、目の前の光景が停止した。


アル「あの幼子は君なのか？　それに、葵という名前は…。」

「あれは、僕がまだ５つの時です。葵というのは、今は捨て、意味を持たない僕の本当の名前です。」

サガ「５つといえば、まだまだ両親に甘えたい盛りだろうに。」

「僕の家庭はあまり経済的に良くありませんでした。小さなアパートに家族３人で身を寄せ合って生きてきて、それでもつつましい幸せな家族でした。何か買ってもらった記憶なんてありませんが、それが不幸せだと思った事も全然なかった。」


白竜は幼い自分に近寄り、悲しい目をして頭を撫でた。


「そんな僕には、小さい頃から不思議な力が備わっていました。『風使い』としての素養が月日を追う毎に少しずつ顕現してきました。」


そして、科学者達の方を見た。

その目はあまりに暗く、冷たく、憎しみが籠もった目だった。


「それを何処からか聞きつけたこの科学者達は、両親に僕を預けるように圧力をかけてきました。父が働く会社にも圧力をかけ、母が働いている会社にも圧力をかけ、何が何でも僕を引き渡せと無言の脅迫を仕掛けてきたのです。」

カノン「そして、その脅迫が生活が行き詰まるほどにまでになり、泣く泣くお前を手放したという事か？」

「そう、なりますね。」

デス「胸糞悪い話だな。」

「でも、僕は両親の言葉を信じて、この科学者達の元で過ごす様になりました。あらゆる実験を施す実験台として。」

リア「何という、恐ろしい事を…！」

「続けましょう。」


白竜は幼い自分の元から離れ、また手をかざした。

場面は急速に早送りされて、建物の内部らしき部屋が見えてきた。