沙織は手当てを終わらせると、頭を垂れた。

その姿に黄金たちは驚いた。


シオン「アテナ、何をなさっているのですか！」

沙織「謝罪です。」

サガ「しかし、神である貴女が何もそこまでなさらずとも！」

沙織「神であろうともです。私はあまりに短慮でした。過去幾度となく、聖衣から選ばれたという理由だけで普通の暮らしを取り上げ、戦いの道へと引きずり込んでしまいました。中にはそれを望まぬ聖闘士も数多く居た事でしょうに…。」


白竜は沙織の手を振り払った。


「そんな懐柔策で僕を手懐けようというのですか？」

沙織「違います！　私は黄竜翁と話したのです！」

「黄竜と？　やはり、遠見の術で僕をずっと見張っていたのはあの人か、趣味の悪い。鏡で話したのですか、やはり。」

沙織「えぇ。黄竜翁はこう仰っていました。貴方は最も罪深き罪を犯し、それでも最も愛を求める者だとも…。」

「本当に、あのお方は余計な事を仰る…。だけど、如何な事を言われようとも僕は聖闘士になれません。」

沙織「神を恨んでいるのですか？」

「この世には神も仏も無い。愛なんて幻。もっとも、人の皮を被った悪魔や鬼とかなら信じますけどね。」


沙織は悲しそうな表情になる。


沙織「何故、そこまで神と愛を信じないのですか？」

「信じていましたよ、小さい頃は。それを裏切るような出来事があったから信じなくなっただけ。」

沙織「教えてはくれませんか？　一体、幼き日の貴方に何事があったのです？」


沙織は根気よく白竜に語りかける。

あくまでもアテナでなく、城戸沙織として。

それは聖闘士たちにとって歯がゆすぎる場面だった。