「ふぅ…。」


執務室、射手座の印を頂く机にはたくさんの書類が山積みだ。

そんな彼女の机にある少ないスペースに、静かにお茶が置かれた。


「…カミュ？」

カミュ「根を詰めすぎると良い考えも浮かばないだろう？　少し、息抜きをすると良い。」

「そうだね、そうさせてもらうよ…。」


カミュもチラリと山積みの書類を見てみるが、まぁなんと議題の多い事か。

聖域一のワーカーホリックであるサガもこれには舌を巻いているらしいが…。


「心配要らないよ、カミュ。これは僕が望んで得た仕事なんだから。」

カミュ「しかし、内容が多岐に渡りすぎだ。せめて、一項目でも誰かに回した方が良い。もしくは、誰かと一緒に取り組んだらどうだ？」

「…ありがとう、カミュ。大丈夫、休みもちゃんと取っているし、少しでも早く聖域内を整えたいんだ。そうでないと、僕が射手座になった意味がない。」


射手座に就任してから良く話すようになった葵だが、彼女は思ったよりも仕事熱心でその上優秀だった。

あのシオンやサガまでその優秀振りを買っていたのだから。

今のところ、文官タイプの仕事ばかりについているが、これで任務を与えられたら彼女は壊れてしまいそうでカミュは怖かった。

同じ思いを抱いている黄金たちも水面下で彼女の仕事を少しでも減らそうと、任務を少し増やしているくらいなのだ。

そのおかげで、彼女には任務が未だ与えられていない。


「それにね、カミュ。僕は…少しでも誰かの役に立ちたいんだ。」


窓辺に立つ彼女の背中は、何と儚い事か。


「今まで、闇の中で血に塗れる事でしか自分の存在意義を確かめる事ができなかった。だけど、ここでは太陽の下で自分の存在意義を確かめられる。その喜びを誰かの役に立つ事で表したいんだ。」


彼女の真っ直ぐな瞳に、偽りは無い。

カミュは呆れるようにため息をついた。