カオス『この娘は、私の転生体なのだ。』

冥王「葵が、貴方の転生体！」

海皇「何と……！」

カオス『私の小宇宙と自我の一部を受け継いでいるのだ。』

沙織「何故、そのような事になったのですか？」

カオス『遥かなる古の時代、私はこの世界を構築する全ての基礎を築き上げた。そう、様々な神を生み出してきた。やがて私が居なくても世界が動いていく事ができるようになり、私の役目はそこで終わるはずだった。そして、混沌という空間に我が身を変換する事になるはずだった。』

冥王「しかし、カオス様は人の姿をしていらっしゃる。」

カオス『そう。この世界は我が子同然。私はこの世界が愛しかった。ただ空間としてこの世界に漂うのではなく、生物としてこの世界で生き続けたいと願った。そして、小宇宙と自我を切り離し、器となる人の形を作り、人として代々生き続けてきた。』

海皇「葵はそれに気づいておりませんでしたが、何故ですか？」

カオス『最初はカオスとしての記憶も力も持ち合わせていた。しかし、転生を繰り返していくうちに記憶も自我も封印され、そのうち１人の人間の魂として何度も輪廻を繰り返して生きたのだ。そして、偶然にも前世でアテナの聖闘士として転生したのだ。少しずつ山羊座の小宇宙に影響を受け始め、私の小宇宙がこの娘の小宇宙として表に出て行くようになった。』


ここで、三神は葵の強さの秘密を垣間見た気がした。

地上にある全てを生み出した創生神、カオス。

そのカオスの小宇宙を有しているとなれば、彼女の強さは納得できる。

人でありながら神より大きな小宇宙を持ち、平然とそれを操るのだから。


カオス『しかし、問題が起こった。』

海皇「問題？」

カオス『小宇宙は封印から解き放たれた。だが、記憶だけがいつまでたっても戻らなかった。私の小宇宙は私の記憶がなければ制御、抑止はできぬもの。記憶が戻らない状態が続けば、いずれは自滅する。空気を入れすぎ、破裂する風船のように。』

沙織「何という事でしょう…。」

カオス『何としても、それは阻止しなくてはと私は思った。そして、辛うじてできる夢での啓示を思いついたのだ。私の神代での記憶をそのままこの娘に見せ、カオスとしての記憶を取り戻させようとした。だが、結果はこのような事態にまで深刻化してしまった。』

沙織「カオス様、質問がございます。」

カオス『何かな？』

沙織「お姉さま、御剣葵は前世で山羊座の聖闘士でございました。しかし、聖闘士であった頃にこのような事になったとは、彼女の同輩で今も生きている者たちは言っておりませんでした。それは何故なのでしょう。」

カオス『アテナとハーデスの前聖戦時、この娘は死んだ。言い方は悪いが、そのとき死んでいなければいずれは暴走していた。それに、今世とは違い、日々大量の小宇宙を消費している聖闘士としての生活が救いだったのだろう。ほどよくガス抜きのように小宇宙が抜かれ続けていたので、その点ではまだ余裕があったのだと思う。』

沙織「お姉さまが本格的に小宇宙に目覚められたのは、この聖域に来たわずか数ヶ月前の事。それまで小宇宙を発散する場所がありませんでしたから、溜まっていたという事ですね。」

カオス『その通りだよ、アテナ。そして、溜まった分だけ余計に体に負担がかかっていたのさ。』