（あぁ、またこの夢なのか。）


葵は夢を見ているとわかった時、その夢がここ数日見ている同じ夢だと理解した。

最初はいくつかの人影が自分の前にあるとしか覚えていなかったが、それは少しずつ鮮明になり、記憶にも残っていくようになった。

そして、今日はそれがより鮮明に見えてきた。

視線の先には、古代ギリシャの衣装である貫頭衣を優雅に着こなし、着飾っている男女５人だった。

見た感じ、どうも自分よりは年上っぽい。

加えて、記憶力には自信があるが、彼らに符合するデータは葵にはない。

それなのに、何故か彼らが懐かしい、愛しい。

その気持ちも同時に溢れてきた。

自分の存在に気付いた５人は代わる代わるに語りかけてくる。

嬉しそうに、楽しそうに、まるで長年の知り合いと話すが如く。

でも、その話し声は葵に全く聞こえてこないのだ。

いわば、無声。

テレビの音声だけを消して、人間の動きだけを見ているような感覚になった。


「すまないけど、何を言っているのかわからないんだ。」


申し訳なく彼らに語りかけると、こちらの意思はどうやら伝わるらしい。

彼らはとても残念そうに自分を見つめる。


「ごめんな。」


それだけ呟くと、葵は急に眠りの淵から引き上げられた。

目を開けると、既に真夜中。


「また、夢を見たのか。」


夢を見ている時は懐かしいと思えるが、こうやって目を覚ますと全然覚えていない。

加えて、疲労感が残るのだ。

いつまでもハッキリしないこの出来事にイラツキも覚えるが、どうしようもない。

起きていても仕方がないので、葵は再び眠りについた。