磨羯宮。

戻ってきた翌日の夜になっても、主は未だ目を覚まさない。

彼も一流の聖闘士、軽く一撃を入れたのではすぐに意識が戻り、再び自害しようとするだろう。

今は深く眠らせておきたいという、アイオロスのせめてもの気持ちだった。

見張りをしていたミロのところにカミュとカノンが訪ねてきた。


カミュ「ミロ、シュラの様子は？」

ミロ「まだ目を覚まさん。」

カノン「…シュラよ。」


ベッドの上で未だ目を覚まさないシュラをカノンは悲しげに見つめた。


カノン「目の前で愛する人を失い、その遺体すら消滅し、葬る事もできないとは…。」

ミロ「葵、どれだけ怖かっただろう…。俺たちの様に、幼い頃から死線を潜り抜けてきた者ではないのに、あのような邪神の前に立ち塞がるなんて…。」


思い出そうとすれば彼女は色鮮やかに甦る。

軽やかに舞う美しい黒髪。

胸ときめく笑顔。

優しさに溢れた心。

自分たち全員を兄と慕ってくれる可愛らしさ。

自分たちよりも小さく華奢な体でクルクルと動き回って。

光がよく似合う、まるで天使のような娘。

そんな葵を守れなかった自分たちの非力さが恨めしい。

シュラ１人のせいではない、自分たちの非力さも招いた悲劇なのだ。


カミュ「葵の弔いの日が決まった。」

ミロ「…いつだ？」

カミュ「シオン様と神官長の相談の結果、明日に決まったそうだ。埋葬場所は聖域女官墓所になりそうだ。」


何かしたいという葵に与えたのは聖域での勤労。

数ヶ月の僅かな期間でも従事したのだから、当然その権利はある。


ロス「カミュ、カノン。来ていたのか。」

カミュ「アイオロス？」


アイオロスがカミュたちの元へ顔を見せる。


ロス「もしかして、弔いの事を？」

カミュ「えぇ。シュラが目覚め次第に教えようと思い、寄ってみたのですが。」

ロス「俺が思いきり一撃加えたからな。明日までに回復してくれれば良いんだが…、ん？」


その時だった。

閉じられていたシュラの瞳が少しずつ開かれていったのは。