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長曾我部元親

「ねぇ元親さん」
酷く穏やかな昼下がりの頃。治りきっていない傷を抱えたままの国主は、布団の中から俺の名を呼んだ。

「なんだよ。また仕事するとか言うんじゃねぇだろうな」

大人しく横になっている其奴の枕元に腰を下ろし、じろりと顔を見下ろした。此奴は先日、先の戦で大怪我を負っているのにも関わらず、「国主としての仕事を止める訳にはいかない」と言って聞かなかった前科がある。


「ううん、もう言わないよ。片倉さんとかにこっぴどく叱られたし」
困ったように笑う彼女の頬には、まだ少し血の滲む止血用の布が貼られていて、頭には包帯が何重にも巻かれていた。

年頃の娘が、なんて言おうとしたが口を噤んだ。この言葉はきっと、此奴の選んだ道全てを否定することになってしまうだろうから。
「そりゃあ何よりだな。……で、俺になんか用か?」
改めて顔を覗き込んでみると、彼女は掛け布団で顔の下半分を隠して、視線だけを俺の方に投げた。

「御礼を言いたくて。あの時、助けてくれてありがとう。あと少し元親さんが気づくのが遅れてたら今頃半身が吹っ飛んでたかも」
「半身だけじゃ済まなかったかもな」
冗談めかしてそう言うと、彼女も小さく笑った。そしてこうも続けて言った。


「あの時の元親さん、王子様みたいでかっこよかった」
「王子?」
王子、なんて柄にも無い言葉を不意に投げつけられて、思わず聞き返してしまう。海賊だ鬼だとは言われ慣れていたが、まさか王子だと言われる日が来ようとは思っても居なかった。

「私は、お姫さまなんて良いものじゃないけどね」
「それでもあの一瞬だけは、王子様に助けられるお姫さまの気持ちが分かったかも、なぁんて」

「あぁ、分かった分かった。もう十分だ」
言われ慣れていない言葉を浴びせられて、なんだか照れくさいような、全身がむず痒いような感覚がする。
「……照れてる?」
「照れてなんかねぇよ」


"本物の王子"ならもっと上手くアンタを守れた筈だろ、なんて言ってしまった日にはきっと、出処の分からない生真面目な煽て言葉の雨を浴びせられるだろうから、グッと喉の奥に飲み込んだ。
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