このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

長曾我部元親

とある日の夜のこと。月も居ない、真っ暗な夜のこと。
電気もつけないまま、真っ暗な部屋の中で彼は私を抱きしめていた。酷く恐ろしいんだと、震える声でそう零しながら。
一体何が恐ろしいのか、私が消えてしまうことだろうか。
そう尋ねてみると、彼は小さな声で囁くように呟いた。
「自分自身が恐ろしい」と。
こんなことをしてしまう自分自身が恐ろしいと。
嫌ならば拒絶して欲しいと言いながら、私を抱きしめる腕はそれを許さない。
それでも彼の胸を押したならば、きっと彼は壊れてしまうだろう。
自分が壊れていく恐怖に怯えながら、もう元には戻れない。
私もそれはよく分かっていた。
彼が私を此処へ閉じ込めた時点で、元に戻る道なんて既に閉ざされていたのだから。
私は二度と日の目を見れない。
それでも構わないと思っている自分も大概頭がおかしいのだろう。
「嫌なら此処なら逃げてくれ」「何処にも行かないでくれ」
そんな二律背反に苦しむ彼は、酷く幼く見えた。
別に泣き顔がどうとかいう訳ではなく、心の問題。
「……元親……」
小さく彼の名前を呼ぶ。もう戻れないのは分かっている。でもそれは"彼の選択"。ここで私が彼を抱き締めれば、それは"私の選択"になる。
自らもう無い退路を断つ事になる。
何も変わらないことだって?気持ちの問題だよ。
こんなに震える程に怯えているのに、刃物の一つや暴力の一つも振るわない彼に少し笑みが零れた。何処までも優しい人。私の愛しい人。
そんな震える彼の大きな背中を、私は精一杯手を広げて強く抱き締めた。
「愛してる」「私は何処へも行かないよ」
退路の崩れる音がした。
月も星も無い、私たちだけの部屋の中。
たった今から、この部屋が私の"世界"になった。
10/10ページ
スキ