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長曾我部元親

この世の黄金を全て掻き集めたのかと思う程の宝の山、何処ぞの姫さんがつけていたであろう煌びやかな王冠、見たことも無い色の宝石。この広い海には何でもあった。

そりゃ勿論、苦労して手に入れた宝を眺めるのは好きだ。それを祝って野郎共と宴をするのも。飲んで食って騒ぐ。海賊の生き様ってのはこうでなくちゃならねぇ。


だが、それと同じくらいに楽しみなこともある。それは、航海から帰ってからのこと。


「アニキ、これで戦利品は全部運び終わりましたぜ!」
「今日はどれを持っていくんで?」
目の前にどんと広がる宝の山から、少し小ぶりな王冠を手に取ってみる。全面黄金で構成されている冠は、色とりどりの宝石で装飾が施されている。紅玉に青玉、翠玉や紫水晶まで埋め込まれていた。その1つだけを抜き出しても相当な価値があるだろう。

「一体何処の姫さんのモンだったんだろうな」
日ノ本では中々お目にはかかれない代物を片手に、待ち人の居る屋敷へと歩みを進めた。



「今帰ったぜ!」
戸を開きそう声を投げると、廊下の奥からバタバタと騒がしい足音が近づいてきた。
「元親様!また長旅に出られて……!姫様がどれだけ頑張っているとお思いで?!」
耳をつく小言と共に迎えに来た目付け役をなんとか宥め、チラリと廊下の奥の方を眺めてみる。予想通り、パタパタと急ぎ目の足音が聞こえてくる。

「元親おかえりなさい!」
「おう、ただいま」
近づいてきた彼女を片手で抱き上げ、顔を合わせる。垂れた髪から香油の香りが包み込むように舞った。

「今回も良い土産話があんだけどよ、聞いてくれるか?」
「うん、勿論」
目付け役の溜め息を聞き流しながら、彼女を抱えたままいつものように部屋に戻る。
「お宝獲れた?」
「おうよ、今回は大収穫だったぜ」
なんて会話をしながら、あっという間に部屋に辿り着く。


そっと彼女を床に下ろし、腰を下ろす。姿勢を正して俺の前に座る彼女の前に、手に持っていた冠をポンと置いた。
「今回の土産だ。南蛮の姫さんはそれを被るんだとよ」
「へぇ……凄い、色んな宝石があるね」
触っていい?という彼女に頷けば、ガラス細工を扱うような慎重な手つきで冠を持ち上げた。
「……被ってみるか?」
いつまでもジロジロと冠を眺めている彼女にそう言うと、少し目を伏せて首を横に振った。
「ううん、こんな豪華なもの被れないよ。なんかこう、気が引けちゃって」
「今からはもうアンタのモンなんだぜ?」
「そうは言っても……似合わないかもしれないし」
そう言う彼女の手から冠をそっと取り、彼女の頭の上に被せてみた。

「っわ」
「似合わねぇことなんかねぇよ」
綺麗だ、なんて柄にもないことを口走れば、彼女が顔を少し赤くして俯いた。

「……やっぱり、まだなんか慣れないなぁ。元親にそういうの言われるの。……ね、航海の話聞かせて?」

照れを隠すようにそう言った彼女に、今回の航海の出来事、嵐に揉まれた夜のこと、宝を手に入れた時のこと。

航海に連れて行けない分、少しでも良いから同じ景色を想えるようにと、俺が見たものを隅から隅まで伝えた。

うんうんと頷きながらその景色を描く彼女の顔を見るのが、航海の最後を飾るに相応しいモノだなんて思いながら。
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