ねた
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じわじわと辺りが暑くなる夏の午前12時38分。いつも通りコントロール・ルームへ向かいスタッフたちと軽く挨拶を交わし空いている席のモニターを盗み見る。
サーモグラフィーではイスラ・ヌブラル島の天候は上々。各パドック内の様子は…草食竜たちは大人しく、肉食竜たちはまずまずといったところ。途中ラプトル四姉妹のいるパドックではオーウェンによる訓練が行われていたが気になる人物を見かけた。オーウェンと何か話しているようだ。だが早々に興味を失ったので画面を切り替える。
お目当ての9番パドックの映像を見つけた。どれどれと覗き込むとそこにはやはりというか当たり前だが彼女が居て、何かを嚥下している最中だった、恐らくショーの一環だろう。
ティラノサウルス・レックス。恐らくパーク内のどの恐竜たちよりも長寿であろう彼女は画面越しでも威圧感を感じる。そして彼女のいる9番パドックは私の受け持つ場でもある。
「ななし、少しトラブルがあった。頼まれてくれ」
目的は果たしたと立ち上がって出口に向かえば監視員に呼び止められる。はて、トラブルとな。私に声がかかるということは9番パドックのこと以外はまず無いはずだ。手をひらりと翻し私はふうと息をついて今度こそコントロール・ルームを後にした。
ななしという人は、れっきとした日本人でありながら海外で大型、小型問わず肉食獣専門の調教師兼飼育員としての腕を買われ、ジュラシックワールド・パークが建つ以前からイスラ・ヌブラル島へ移動してきた女性である。出来上がってからはラプトルの調教はオーウェンが受け持っているし、本人たちからも必要ないとばっさり振られてしまったので他の恐竜の健康状態を見つつブラブラとしていたところ、9番パドックに辿り着いた。他より多少頑丈に、厳重に厚くされた高い壁を見て疑問を覚えたななしはすぐさま上へ連絡して許可を取った。入って間もなく迷った末にティラノサウルス・レックスを見つけるが睡眠薬を撃ち込まれて寝ていたので物怖じせず近付いてその全貌を見た途端電気が体を突き抜けたような衝撃が走った。このこがいい。このパドックを受け持とう。ななしの中ではすでに許可をふんだくっており、自己完結していた。
後にそれは上から言い渡されることなのだが本人からすれば願ったり叶ったりである。それからはじっと寝ているティラノサウルス・レックスにそっと寄り添って首筋に少し固く勝利の傷痕が刻まれた温かい皮膚を撫でては顔を綻ばせた。まるで眠った愛しいものを甘やかす恋人のように。
要はななしは、ティラノサウルス・レックス(彼女はロベルタと愛称を付けている)に一目惚れをしてしまった少し変わった調教師である。
9番パドック内に入れば何処からともなく草木の間から出てくる彼女にピュイを口笛を合図に歩み寄る。その間、彼女はその大きな尾をゆらゆらと左右に振りながら私を見つめるだけで何もしない。体格の大きな彼女の顔の真下に来てもう一度口笛を吹いてクルクルと喉を鳴らせばゆったりした動作でバランスを器用に調節しながら地面に近付けて私の目の前に顔を差し出してくれる。鼻先をぽん、と撫でてキスを送るとぺろりと舌で舐められるこの瞬間がとても好きだ。許可を貰ったのは随分と前なのに彼女なりのキスを貰うたびようやく女王に許可を頂いたみたいで凄くドキドキしてしまう。ロベルタ、と名前を呼べば鼻先で私の腹から胸にかけて下から上に撫でられる。これは乗っても良いという許可だ。
頭を横に倒したロベルタの首筋から乗って背中を軽く叩けば脚と尻尾に力を入れて上体を持ち上げた途端私の視界はぐっと高くなる。そのまま自由に闊歩し始めるロベルタの体を落ちないように気を付けつつチェックしながら全て書き留める。
そうしながらしばらくロベルタとゆっくり過ごすのが私の基本的なルーチン。しかしながらロベルタは有名なティラノサウルス、パーク内の目玉ということでとても人気があり人の目が幾つも覗いていて少し不機嫌だ。
よしよしと撫で付ければぐるぐると顫動音を鳴らしだすので私もくるくると喉を鳴らす。これも調教師としての仕事してますよアピールだ、実際ちゃんとしているのだが連日の勤務のせいで少し疲れていた体はロベルタのゆったりした動きの振動で眠気を呼び寄せてしまい、ついうっかり寝てしまったのだ。
背中に乗る暖かく小さい存在が背中にころりと転がる感覚がしてロベルタは頭を自らの背を見るように動かした。案の定尻尾の付け根辺りでうつ伏せに眠るななしの姿があってロベルタは少し呆れた感情を抱いた。私以外の奴らだったらすぐに食われていただろう、と感情を乗せてぐるぐると唸りながら自らのねぐら、ではなく侵入されにくいねぐらの先に進んだところにのしのしと歩いていく。もちろんちらりと広い視界で後ろのななしを確認しつつ、だ。
休息の場として使えるように軽く地慣らしをしてから普段以上にゆっくりと腰を下ろしていく。首を伸ばして下顎の歯に布を引っ掛ければぷらんと宙ぶらりんの状態になったななしを自らの側に置きふす、と彼女は満足げに鼻から空気を吐き出した。じっと空を飛び交う翼竜の姿を視認したあと警戒して小さな愛しいものを隠すようにくるりと尾で囲った。
ちからつきた。
このあと対インドミナス撃退手段としてクレアに誘導されるレクシィの精一杯の甘えとして起きたななしちゃんにレクシィがいっぱいちゅっちゅするんだ…ただならぬ様子のレクシィにななしちゃんがいつも通り鼻先撫でてちゅっちゅしてて…。
9番パドックの扉が開く寸前に無理言って乗ってたらいいよ。女王と兵士のご帰還だって拍手した。
とりあえずインドミナスと対峙したレクシィの背から飛び降りて加勢してればいい。実は隠し持ってる銃があったりする。オーウェン達に驚かれること間違いなし。でもきっとレクシィとインドミナスとブルーに対して泣いちゃいそう。ななしちゃんめっちゃアクロバティック