千古不易の求愛を
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私が左、右、左、右…と交互に首を傾ければ負けじと真似をしてくる蛇王龍に思わず漏れた笑み。
すっかり私の警戒心と恐怖心は和みの空気に吹っ飛ばされてしまったが異存、疑問は残ったままだ。それどころか増えるばかりで幼い頃、御伽噺の存在に興味を示した時以上の好奇心や探究心が湧き出てくる。
そこで私は今思えばとんでもないことを口走った。
「ここで蛇王龍の生態を研究する」と。
危険ながら律儀に待ってくれていた調査隊からは無茶なことはやめろと心配の声が飛んでくるがあいにく、私は1度決めたら実行しなければ気が済まない性格なので諦めてほしい。それに、蛇王龍は私を襲わないと思う。
何を根拠に…と思ったであろう。私も思ったのだが、蛇王龍は私を襲わないというのは確かなのだ。
ここに残ると主張する私と、危険だと反対する調査隊に、今まで大人しくとぐろを巻いていた蛇王龍がいい加減しびれを切らしたのか大きく吼えた。
いきなりの咆哮に咄嗟の反射神経で座り込んで耳を塞いだはいいが、全身がびりびりと震える。
しかし、この咆哮は軽い威嚇程度なのだろう。蛇王龍の咆哮とは地を捲るとされるし。じゃなければ捲れた地面に挟まれるか潰されるか、私の耳の鼓膜は破れているかと結局はお終いだ。
後ろを見れば蛇王龍が案の定牙を剥き出しに威嚇していた。
「危険だって事は重々承知してるけど、元々私は御伽噺の存在に興味を持ったんだからね。この後ろに控えるおうさまに」
私と同じように耳を両手で塞いで身体に来る衝撃をなんとか受け流す調査隊達に両手を顔の前で合わせて告げる。それに、襲われないからこそ観察するしかないのだし、ギルドには報告しておいてくださいまし。と向こうが口を開く前にさっさと丸め込み、しれっとギルドへの報告を済ませておいてくれとウィンクを決めた。お叱りや処罰なら帰ってきてから甘んじて受けようという趣旨も忘れず伝えれば、調査隊は口を閉じらざるを得なくなった。
私の蛇王龍に対する研究心はもちろん、皆が皆知っていること。それに滅多に観察、研究ができない超大型古龍(しかも御伽噺級)ときた。そりゃ天秤が傾き掛けますよねごく稀の超大型古龍資料がリスク少なく手に入るのですもんね。
「…分かった、一先ずギルドに報告を済ませよう。しかし、千剣山への滞在許可はギルドマスターに任せるからな」
後ろでふーふーと怒ったアイルーのように威嚇する蛇王龍に後ろへ引きながら渋々といったように私に釘を刺した真面目な調査隊のリーダーがそう言った。内心よし!と拳を握るが続けて滞在許すか許さないかはギルドマスター次第。と朗報でしかない言葉を声に出した。
すると同時に蛇王龍が切れた。何故か私は本人…いや本龍…に滞在許可もどきを貰っているが、飛行船含む調査隊には容赦なく敵意を剥き出しにしゃあしゃあと吠え立てている。
不機嫌さを隠すこともなく表している様に調査隊は飛行船とともに下がる。心配してくれているということはとても痛感できるが、無理を通したのは私なのだから、怪我をする前にギルドへ報告してくれないかなあとぼんやり考えた。
飛行船が暗雲に飲まれて見えなくなった頃、後ろからの威圧と威嚇の音はすっかり消えていた代わりに蛇王龍が動いた。
とぐろを巻いていた状態から首をこちらに伸ばして岩肌に巨体を支える前脚をがり、と引っ掛けて身体を起こした。
巨体ゆえ、ぐっと近くなった距離に思わず引け腰になってしまったがその心情を知ったる事かと言わんばかりにどんどん私と蛇王龍の距離は縮まっていき、ついには私が手を伸ばせば触れる距離になった。
首を傾げたり、時たまふるると音を鳴らしたりと不可解な行動をするがそれ以外はじっと見ているだけで、私自身も言葉を発さず静かに見返した。
『つがい』
いつまでそうしていたか、視界いっぱいに映っていた蛇王龍がゆっくりと、薄く口を開いた。
開けられた口から覗く舌と牙にごくりと口に溜まった唾を飲み、不快感を逃がした。
背筋を高所特有の肌寒さが撫でていくのはどうにもなれない。そんな呑気なことを思っていた。
口を開けて数秒、なにかの音が不意に空気を揺らした。
人が音を繋いで言葉にさせるのと同じなようで少し違うような、なんとも言えない違和感の音が空気中に溶けて消えたことに気付かず、固まって動かなくなった次の瞬間、私の耳には確信を持たざるを得ない音が入り込む。
『何が何だかよく分からないといった顔よな、よいよい。そんなところも愛らしいではないか。ん?どうした』
器用に音を操り、ぽんぽんと軽く吐き出される言葉に口を薄く開けたまま蛇王龍はその酸漿の熟れたような瞳を細めてからからと笑う。
おまけに考えている事が筒抜けで、もう本当にわけがわからない。
開きかけた口を閉じて、混乱している脳を落ち着かせ状況を把握する。
「単刀直入に言います。あなたは私たちの言葉が理解出来るの、ですか」
『うむ。言の葉を理解し、言の葉を紡ぐことも可能。無論、私だけが理解できるのかといえば、そうではない。私達や歳を食ったものは多少なり理解は可能であろう』
状況をゆっくりと噛み砕いて脳へ与えていく中、少しだけ冷えた頭で整理した情報をまとめて言葉を組み立て、その言葉を恐る恐る口に出す。
途中上擦った声になったが気にせず答を待てば蛇王龍はそうさな、と流暢に喉を鳴らし今まで生体研究をしていた中で一番の驚きであろうことをさらりと告げた。
『ところで、だ。そろそろ本題に入ってもいいだろう』
古龍種は人間の言葉を理解でき、更には話すことも可能だという。目の前の蛇王龍のように流暢に言葉を操れる者もいれば拙いながらに伝える者もいるという。悶々と考えに耽っていると蛇王龍が口を開いた。
本題とは、先程私が気のせいだと流したものだろうか。
すると蛇王龍はそうさ、つがいだ。にんまりと笑った。
『いやなに、おまえのことが気に入ったさね。もっとわかり易く言うなれば…そうさな…』
そう、オスがメスに一目でぱっと気に入るやつさ、一目惚れだ。
--蛇王龍は心底嬉しそうに喉を震わせる。
それは初対面でも分かるほどである、音が喜!って感情ダダ漏れなのだから。
つがい、目の前の蛇はそう言ったのかと内心古龍に対して毒づいたのは致し方ないと思う。
だんだんとペースが乱れてきた直後、私が気に入った、一目惚れしたと爆弾を投下した。
もう一度言おう。初対面である。しかも超大型古龍。滅多に出会えることがない古龍の上を行くものが人間に求愛をしている。
『拒む理由はなかろう?なに、もしオスがいたとしても無論問題は無い。強者に弱者は勝てんからな』
未だ求愛発言に本日何回目かの硬直に襲われる。御伽噺の存在に思いを馳せすぎてとうとう夢に現れたのかもしれないと頭を抱えるが、新たに耳に飛び込んできた独特の声が発した言葉に目眩がしたがなんとか持ちこたえる。しかし解せない。
一応ああはいそうですかとありきたりな返事をかけるが蛇王龍は特に気にしておらず、まあ諦める気は更々ないものでな。じわじわと囲い追い詰めて狩るのもまた一興よな。などと恐ろしいことをポツリとこぼしている。
これは大人しくギルドへ帰っていればよかったなと今更ながらに後悔をした。
しかし、ひとつ分かった事がある。
蛇王龍も生態未確認な古龍とはいえ本質は蛇と変わらない、と。
誠に遺憾ではあるが生態をひとつ、頭に入れた。
それからずっとめげずに求愛してくる(その都度スルーしていく)ということはまだ知らない。
すっかり私の警戒心と恐怖心は和みの空気に吹っ飛ばされてしまったが異存、疑問は残ったままだ。それどころか増えるばかりで幼い頃、御伽噺の存在に興味を示した時以上の好奇心や探究心が湧き出てくる。
そこで私は今思えばとんでもないことを口走った。
「ここで蛇王龍の生態を研究する」と。
危険ながら律儀に待ってくれていた調査隊からは無茶なことはやめろと心配の声が飛んでくるがあいにく、私は1度決めたら実行しなければ気が済まない性格なので諦めてほしい。それに、蛇王龍は私を襲わないと思う。
何を根拠に…と思ったであろう。私も思ったのだが、蛇王龍は私を襲わないというのは確かなのだ。
ここに残ると主張する私と、危険だと反対する調査隊に、今まで大人しくとぐろを巻いていた蛇王龍がいい加減しびれを切らしたのか大きく吼えた。
いきなりの咆哮に咄嗟の反射神経で座り込んで耳を塞いだはいいが、全身がびりびりと震える。
しかし、この咆哮は軽い威嚇程度なのだろう。蛇王龍の咆哮とは地を捲るとされるし。じゃなければ捲れた地面に挟まれるか潰されるか、私の耳の鼓膜は破れているかと結局はお終いだ。
後ろを見れば蛇王龍が案の定牙を剥き出しに威嚇していた。
「危険だって事は重々承知してるけど、元々私は御伽噺の存在に興味を持ったんだからね。この後ろに控えるおうさまに」
私と同じように耳を両手で塞いで身体に来る衝撃をなんとか受け流す調査隊達に両手を顔の前で合わせて告げる。それに、襲われないからこそ観察するしかないのだし、ギルドには報告しておいてくださいまし。と向こうが口を開く前にさっさと丸め込み、しれっとギルドへの報告を済ませておいてくれとウィンクを決めた。お叱りや処罰なら帰ってきてから甘んじて受けようという趣旨も忘れず伝えれば、調査隊は口を閉じらざるを得なくなった。
私の蛇王龍に対する研究心はもちろん、皆が皆知っていること。それに滅多に観察、研究ができない超大型古龍(しかも御伽噺級)ときた。そりゃ天秤が傾き掛けますよねごく稀の超大型古龍資料がリスク少なく手に入るのですもんね。
「…分かった、一先ずギルドに報告を済ませよう。しかし、千剣山への滞在許可はギルドマスターに任せるからな」
後ろでふーふーと怒ったアイルーのように威嚇する蛇王龍に後ろへ引きながら渋々といったように私に釘を刺した真面目な調査隊のリーダーがそう言った。内心よし!と拳を握るが続けて滞在許すか許さないかはギルドマスター次第。と朗報でしかない言葉を声に出した。
すると同時に蛇王龍が切れた。何故か私は本人…いや本龍…に滞在許可もどきを貰っているが、飛行船含む調査隊には容赦なく敵意を剥き出しにしゃあしゃあと吠え立てている。
不機嫌さを隠すこともなく表している様に調査隊は飛行船とともに下がる。心配してくれているということはとても痛感できるが、無理を通したのは私なのだから、怪我をする前にギルドへ報告してくれないかなあとぼんやり考えた。
飛行船が暗雲に飲まれて見えなくなった頃、後ろからの威圧と威嚇の音はすっかり消えていた代わりに蛇王龍が動いた。
とぐろを巻いていた状態から首をこちらに伸ばして岩肌に巨体を支える前脚をがり、と引っ掛けて身体を起こした。
巨体ゆえ、ぐっと近くなった距離に思わず引け腰になってしまったがその心情を知ったる事かと言わんばかりにどんどん私と蛇王龍の距離は縮まっていき、ついには私が手を伸ばせば触れる距離になった。
首を傾げたり、時たまふるると音を鳴らしたりと不可解な行動をするがそれ以外はじっと見ているだけで、私自身も言葉を発さず静かに見返した。
『つがい』
いつまでそうしていたか、視界いっぱいに映っていた蛇王龍がゆっくりと、薄く口を開いた。
開けられた口から覗く舌と牙にごくりと口に溜まった唾を飲み、不快感を逃がした。
背筋を高所特有の肌寒さが撫でていくのはどうにもなれない。そんな呑気なことを思っていた。
口を開けて数秒、なにかの音が不意に空気を揺らした。
人が音を繋いで言葉にさせるのと同じなようで少し違うような、なんとも言えない違和感の音が空気中に溶けて消えたことに気付かず、固まって動かなくなった次の瞬間、私の耳には確信を持たざるを得ない音が入り込む。
『何が何だかよく分からないといった顔よな、よいよい。そんなところも愛らしいではないか。ん?どうした』
器用に音を操り、ぽんぽんと軽く吐き出される言葉に口を薄く開けたまま蛇王龍はその酸漿の熟れたような瞳を細めてからからと笑う。
おまけに考えている事が筒抜けで、もう本当にわけがわからない。
開きかけた口を閉じて、混乱している脳を落ち着かせ状況を把握する。
「単刀直入に言います。あなたは私たちの言葉が理解出来るの、ですか」
『うむ。言の葉を理解し、言の葉を紡ぐことも可能。無論、私だけが理解できるのかといえば、そうではない。私達や歳を食ったものは多少なり理解は可能であろう』
状況をゆっくりと噛み砕いて脳へ与えていく中、少しだけ冷えた頭で整理した情報をまとめて言葉を組み立て、その言葉を恐る恐る口に出す。
途中上擦った声になったが気にせず答を待てば蛇王龍はそうさな、と流暢に喉を鳴らし今まで生体研究をしていた中で一番の驚きであろうことをさらりと告げた。
『ところで、だ。そろそろ本題に入ってもいいだろう』
古龍種は人間の言葉を理解でき、更には話すことも可能だという。目の前の蛇王龍のように流暢に言葉を操れる者もいれば拙いながらに伝える者もいるという。悶々と考えに耽っていると蛇王龍が口を開いた。
本題とは、先程私が気のせいだと流したものだろうか。
すると蛇王龍はそうさ、つがいだ。にんまりと笑った。
『いやなに、おまえのことが気に入ったさね。もっとわかり易く言うなれば…そうさな…』
そう、オスがメスに一目でぱっと気に入るやつさ、一目惚れだ。
--蛇王龍は心底嬉しそうに喉を震わせる。
それは初対面でも分かるほどである、音が喜!って感情ダダ漏れなのだから。
つがい、目の前の蛇はそう言ったのかと内心古龍に対して毒づいたのは致し方ないと思う。
だんだんとペースが乱れてきた直後、私が気に入った、一目惚れしたと爆弾を投下した。
もう一度言おう。初対面である。しかも超大型古龍。滅多に出会えることがない古龍の上を行くものが人間に求愛をしている。
『拒む理由はなかろう?なに、もしオスがいたとしても無論問題は無い。強者に弱者は勝てんからな』
未だ求愛発言に本日何回目かの硬直に襲われる。御伽噺の存在に思いを馳せすぎてとうとう夢に現れたのかもしれないと頭を抱えるが、新たに耳に飛び込んできた独特の声が発した言葉に目眩がしたがなんとか持ちこたえる。しかし解せない。
一応ああはいそうですかとありきたりな返事をかけるが蛇王龍は特に気にしておらず、まあ諦める気は更々ないものでな。じわじわと囲い追い詰めて狩るのもまた一興よな。などと恐ろしいことをポツリとこぼしている。
これは大人しくギルドへ帰っていればよかったなと今更ながらに後悔をした。
しかし、ひとつ分かった事がある。
蛇王龍も生態未確認な古龍とはいえ本質は蛇と変わらない、と。
誠に遺憾ではあるが生態をひとつ、頭に入れた。
それからずっとめげずに求愛してくる(その都度スルーしていく)ということはまだ知らない。