MHまとめ
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こぽ、薄く開けた口から酸素の泡が逃げていく。
水を吸って重くなった服は体にまとわりついてくる。
息ができなくて少し苦しい。
目を閉じれば、何もかもが消えた。
ゆらゆらと、揺れる感覚。苦しさも、静かさもない。
波をかき進む音とごつごつとした感触。…ああ、また助けられたのか。
「…かみなりさま、ごめんなさい」
かみなりさま。頭部後方に伸びる巨大な角を持ち、美しく蒼く光る外殻に覆われたしなやかに動く体、背中に並んだ青白く発行する突起。
全くだと、口から泡を吐いている。
しばらくかみなりさまは私を乗せたまま、海を掻き分け、のそのそと陸地に揚がった。
降りやすいように身を低くするかみなりさまにありがとうと伝えて砂浜へ足をつける。
『またお前は懲りずに海へ飛び込んだのか』
「えへへ…」
体に染み付く潮の香りと水気をぶるりと身を揺らし、振い落す。
頭上から呆れたような声が降ってくる。誤魔化すように苦笑いを浮かべた。
ななし。ため息混じりに名前を呼ばれて恐る恐る顔をあげる。
『いいか、お前は我が大切な娘である、寂しさ故に母なる海へ沈もうなどとしないでくれ』
怒られるだろうか、かみなりさまは怒らせると怖いのである。
内心びくびくと震えていたら、かみなりさまの鼻にあたる場所が私のおでこに軽く触れた。
ぎゅっと、かみなりさまに抱きついて綺麗な蒼に顔を埋める。
かみなりさまの紡ぐ音をひとつも聞き逃さず、しっかりと耳に残す。
ななし、今度は柔らかに名前を呼ばれて、少し、鼻がつんとした。
かみなりさまは、私にとって親であり、生贄として捧げられた大海の王で。
幼い頃に親を失くして少し成長した時期、地震が多々起きるようになった。それに、海竜と呼ばれる竜の襲撃が重なって、地震の原因は海竜ではないか。怒り狂う王が地震を引き起こしているのではないか。村の人達は口々にそう言った。
そこで、怒りを鎮めるための生贄を捧げるのはどうかと一人が言った。幼く若い子供がいいであろう。村長は暫し渋ったが、提案は受け入れられた。
しかし村の母らは子供を生贄にはしないと断り続けたが、一人だけいる、と。生贄の矛先は、身寄りのない私に向いた。
心のどこかで分かっていた。
村の人達はそうと決まれば、と事前に用意されていた純白のふんわりとしたドレスに、貝殻など海をあしらっていく。
最後に、顔を隠すベールを掛ければ生贄としての私が完成である。一見して、海の花嫁衣装のようだ、と薄ら笑った。
中には、複雑そうな、可哀想だと私を憐れに思う顔を浮かべる人だっていた。
けど、仕方ない。決まったことなのだから。
夜、からからと荷車を引く音と虫の鳴く声を音楽にぼうっと夜空を見上げていた。
生贄、とは食べられてしまうのだろうか。
諦めていた心に少しの恐怖が垂れる。
少し身動きをすれば、しゃらと揺れる海の簪を手に取って、ぽたりと一粒、涙した。
荷車は海竜の元へ着いたのか、揺れが止まり、塞いでいた布を取り払った。
とうとう、着いてしまった。
裸足で夜の冷たい砂浜に降りれば、私に気付いたのか、お供え物を置いていた村人が下がる。
じっとしていれば、村人達は何かを言って祈りを捧げるように手を組んで黙っていた。
静寂を破るようにして現れたのは、生贄として捧げられる主。海竜である。
縄張りに入った虫を追い払うが如く、海竜の背中が淡く光り、村人達の近くで放電した。
怯えた村人達は我先にと逃げ出していく様を知らんぷりで、目前の海竜を見て、こうべを垂らした。
「こんばんは。あなたさまの生贄となりました」
不思議なことに、竜は黙って私を見ている。
何故だろうと、一声かければ、竜は小首を傾げたあと、陸へ揚がり、私を見下ろす。
『生贄と。憐れよな。』
ぐるると喉を鳴らしてこちらを見ている。
憐れ、言いつつ心做しか、にやりとした表情に見える。
相打ちを軽く。なので、食うなり焼くなりお好きにどうぞ。と見上げれば、竜はほう、と目を瞑った。
『お前、私の言葉が分かるのか』
「ええ、分かりますとも。」
再び私を見据えた竜は、言葉が理解出来るとはこれまた面白い。名は?と尋ねた。
「ななし」
すっと息を吸って吐いた。
目を細めた竜は、ななし、良い名だ。
優しげな声で自らの名前を褒められるというのは、嬉しくとも、なんだか恥ずかしい。
竜は、幼き弱者ながらにその芯の強さ、気に入った。
どうせ生贄。ならば私が親となり娶ってやろう。
のう、ななし。
それが、私とかみなりさまの成り立ちである。
「ねえ、かみなりさま、あの時言った めとる って、なに?」
『妻として迎えるという事だ。』
抱きついたまま、思い出したことをかみなりさまに問う。
心身ともに成長したのだ、かみなりさまの答えが理解出来ないほど幼くもない。
かあっと体が火照る私にくつくつと笑うかみなりさまは意地悪だ。
『ななし』
私の妻になってくれないか。なんて、ずるい竜だ。
逃げ道を与えているフリをして、逃がすつもりは無いがと言わんばかりに爛々と輝く目を見てしまえば、逃げる気も失せてしまう。
「ラギアクルス」
あいしてる。元から、逃げる気なんて何処にもないのだけど。
水を吸って重くなった服は体にまとわりついてくる。
息ができなくて少し苦しい。
目を閉じれば、何もかもが消えた。
ゆらゆらと、揺れる感覚。苦しさも、静かさもない。
波をかき進む音とごつごつとした感触。…ああ、また助けられたのか。
「…かみなりさま、ごめんなさい」
かみなりさま。頭部後方に伸びる巨大な角を持ち、美しく蒼く光る外殻に覆われたしなやかに動く体、背中に並んだ青白く発行する突起。
全くだと、口から泡を吐いている。
しばらくかみなりさまは私を乗せたまま、海を掻き分け、のそのそと陸地に揚がった。
降りやすいように身を低くするかみなりさまにありがとうと伝えて砂浜へ足をつける。
『またお前は懲りずに海へ飛び込んだのか』
「えへへ…」
体に染み付く潮の香りと水気をぶるりと身を揺らし、振い落す。
頭上から呆れたような声が降ってくる。誤魔化すように苦笑いを浮かべた。
ななし。ため息混じりに名前を呼ばれて恐る恐る顔をあげる。
『いいか、お前は我が大切な娘である、寂しさ故に母なる海へ沈もうなどとしないでくれ』
怒られるだろうか、かみなりさまは怒らせると怖いのである。
内心びくびくと震えていたら、かみなりさまの鼻にあたる場所が私のおでこに軽く触れた。
ぎゅっと、かみなりさまに抱きついて綺麗な蒼に顔を埋める。
かみなりさまの紡ぐ音をひとつも聞き逃さず、しっかりと耳に残す。
ななし、今度は柔らかに名前を呼ばれて、少し、鼻がつんとした。
かみなりさまは、私にとって親であり、生贄として捧げられた大海の王で。
幼い頃に親を失くして少し成長した時期、地震が多々起きるようになった。それに、海竜と呼ばれる竜の襲撃が重なって、地震の原因は海竜ではないか。怒り狂う王が地震を引き起こしているのではないか。村の人達は口々にそう言った。
そこで、怒りを鎮めるための生贄を捧げるのはどうかと一人が言った。幼く若い子供がいいであろう。村長は暫し渋ったが、提案は受け入れられた。
しかし村の母らは子供を生贄にはしないと断り続けたが、一人だけいる、と。生贄の矛先は、身寄りのない私に向いた。
心のどこかで分かっていた。
村の人達はそうと決まれば、と事前に用意されていた純白のふんわりとしたドレスに、貝殻など海をあしらっていく。
最後に、顔を隠すベールを掛ければ生贄としての私が完成である。一見して、海の花嫁衣装のようだ、と薄ら笑った。
中には、複雑そうな、可哀想だと私を憐れに思う顔を浮かべる人だっていた。
けど、仕方ない。決まったことなのだから。
夜、からからと荷車を引く音と虫の鳴く声を音楽にぼうっと夜空を見上げていた。
生贄、とは食べられてしまうのだろうか。
諦めていた心に少しの恐怖が垂れる。
少し身動きをすれば、しゃらと揺れる海の簪を手に取って、ぽたりと一粒、涙した。
荷車は海竜の元へ着いたのか、揺れが止まり、塞いでいた布を取り払った。
とうとう、着いてしまった。
裸足で夜の冷たい砂浜に降りれば、私に気付いたのか、お供え物を置いていた村人が下がる。
じっとしていれば、村人達は何かを言って祈りを捧げるように手を組んで黙っていた。
静寂を破るようにして現れたのは、生贄として捧げられる主。海竜である。
縄張りに入った虫を追い払うが如く、海竜の背中が淡く光り、村人達の近くで放電した。
怯えた村人達は我先にと逃げ出していく様を知らんぷりで、目前の海竜を見て、こうべを垂らした。
「こんばんは。あなたさまの生贄となりました」
不思議なことに、竜は黙って私を見ている。
何故だろうと、一声かければ、竜は小首を傾げたあと、陸へ揚がり、私を見下ろす。
『生贄と。憐れよな。』
ぐるると喉を鳴らしてこちらを見ている。
憐れ、言いつつ心做しか、にやりとした表情に見える。
相打ちを軽く。なので、食うなり焼くなりお好きにどうぞ。と見上げれば、竜はほう、と目を瞑った。
『お前、私の言葉が分かるのか』
「ええ、分かりますとも。」
再び私を見据えた竜は、言葉が理解出来るとはこれまた面白い。名は?と尋ねた。
「ななし」
すっと息を吸って吐いた。
目を細めた竜は、ななし、良い名だ。
優しげな声で自らの名前を褒められるというのは、嬉しくとも、なんだか恥ずかしい。
竜は、幼き弱者ながらにその芯の強さ、気に入った。
どうせ生贄。ならば私が親となり娶ってやろう。
のう、ななし。
それが、私とかみなりさまの成り立ちである。
「ねえ、かみなりさま、あの時言った めとる って、なに?」
『妻として迎えるという事だ。』
抱きついたまま、思い出したことをかみなりさまに問う。
心身ともに成長したのだ、かみなりさまの答えが理解出来ないほど幼くもない。
かあっと体が火照る私にくつくつと笑うかみなりさまは意地悪だ。
『ななし』
私の妻になってくれないか。なんて、ずるい竜だ。
逃げ道を与えているフリをして、逃がすつもりは無いがと言わんばかりに爛々と輝く目を見てしまえば、逃げる気も失せてしまう。
「ラギアクルス」
あいしてる。元から、逃げる気なんて何処にもないのだけど。
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