クロムが試合前に気絶してしまい不戦勝で優勝した千空はルリと結婚したが5分で離婚したという話をコハクから聞いたスイレンは複雑な心境になった。
千空らしいといえばらしいので妙に納得できる部分もあるのだが、ルリが前代未聞のバツイチ巫女になってしまった。


「私、20年生きてきてこんなにも衝撃的なこと初めてかもしれない…」

「あ？スイレンが20歳ってのもなかなか衝撃なんだが」

「意外とお姉さんなのよ」


冗談交じりにそう言えば千空に見えねーと言われてしまったがスイレンは特に気にしていないようだ。
そのやり取りを聞きながらゲンは対応は大人だなと思っていた。
ルリの容態があまり良くないのでサルファ剤に必要な残りの材料を作るべく滝の方へやってきた。
水の力でくるくると回り続ける竹の工作の用途は不明だが、カセキが作ったそれは惚れ惚れしてしまうほどの出来だった。
女子たちは惚れちゃってもいいぞいという発言にスイレンが本当に惚れ惚れしちゃうねと返せばカセキは上機嫌になった。
何が出来るかは明日のお楽しみらしくカセキは我が子が流木とかで壊れたら泣いちゃうという理由でこの場に残ることになった。
ラボに戻ろうとしたゲンはカセキにつかまり手伝わされることに。


「思ったより傷が浅くてよかったよ」


気絶しているクロムを村からラボへ運びスイレンが一通り手当てを済ませる。
その直後に千空が鼻に何かを突っ込んだ。
アンモニアの強烈な匂いに飛び起きたクロムを見てコハク、スイカ、スイレンは鬼だと呟いた。
わざわざ診療所ではなくラボに運んだのはたたき起こすつもりだったからかと納得もした。
あとは素材を組み合わせるだけらしいが明日までにサルファ剤を仕上げるべく人手が必要なのだ。
ややこしいSTEPが25くらいまであるとウキウキとアニリンを作りながら話す千空とや、ヤベー…とつぶやくクロムの温度差がなかなか激しい。
手分けをしながら作業を行い、スイレンは各所を回って都度手が足りないところを手伝っている。


「千空ちゃーん、この炭酸ってなんに…」


夜が明けたころにニコニコしながら炭酸を持ってラボへやってきたゲンは荒れ果てた光景に驚愕した。
ラボの中に千空とクロムが倒れている。


「騒がしいと思ったらなかなか酷い有様だね…」

「爆発でもあった？？またゴイスーだねこりゃ」


診療所で作業をしていたスイレンがいつの間にやらゲンの隣にいて呆れ顔をしている。
前髪が邪魔になったようで適当に結んである為いつもは隠れている金色の瞳が見えていてしっかりと表情がわかる。


「大したことはやっちゃいねえよ」


起き上がった千空が何をしていたのか解説しているが、呪文のようにしか聞こえない。


「やっとできたアセトアニリドにクロロ硫酸を混ぜりゃP-アセトアミドベンゼンクロロスホルン酸でそこにアンモニアぶち込んだP-アセトアミドベンゼンスルホン酸アミドを塩酸で煮た料理がアレな」

「よく噛まずに言えるね千空ちゃんそれ」

「…何言ってるかさっぱりわかんない」

「俺も」

「最後に！その炭酸だ」


ゲンの手から炭酸の入った瓶を受け取ると千空は嬉しそうに水酸化ナトリウムと混ぜて重曹にする！！と元気いっぱいに答えた。
千空の答えにゲンは俺もそう思ってた～と言っているが何かを期待していたのかなんともいえない複雑そうな表情をしている。
ゲンがなんとなく落ち込んでいるように見えたので頭を撫でてやればスイレンちゃん優しいと抱き着かれ頭を撫で返された。
ほとんど徹夜での作業だったので抵抗する元気のないスイレンはされるがままだ。
欠伸を噛み殺し眠い目をこすっている姿は猫のようにも見える。
ゲンはスイレンの適当に結んでいる前髪をほどいてきれいに結び直した。


「あんまり適当に結ぶと髪が痛んじゃうよ、せっかく綺麗なのに」

「…んー」

「ありゃー、全然聞こえてないね」

「待ち時間の間寝かしてやるか」


千空からのお許しもいただいたのでゲンはほとんど意識のないスイレンを抱え上げると診療所に運んだのだった。





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