初日の出を拝みに行った後、現代でもフィラメントに使われている最強金属のタングステンを探しに千空、クロム、マグマが洞窟へと向かった。
千空がいない間に用意したいものがあったゲンは村の住人たちに声を掛けてあるものを作っていた。
村の住人たちはとても協力的で予想以上のものが出来上がりそうだ。


「…つっかれた～」


ゲンは朝から忙しなく動いていたためか日が落ちる頃にはくたくたになって科学倉庫で寝ころんでいた。
こうして1人で科学倉庫にいると怪我をした時のことを思い出す。
何だか懐かく感じるがまだ数か月しか経っていない。
時の流れとは不思議なものだ。


「…？」


いつの間にか寝てしまっていたゲンは胸のあたりに重みを感じて目を覚ました。
視線を少し下げると見覚えのある白い頭が視界に入る。


「スイレンちゃん、何してるの？」

「…君が怪我した時のことを思い出しちゃって、念のため生存確認？」

「大丈夫だよ。スイレンちゃんのお陰で俺ちゃんと生きてるから」


相変わらずの予想の斜め上の回答にゲンは苦笑いしながら自分の胸に耳を押し当てているスイレンを見つめる。
心音を確認し上体を起こそうとするスイレンの頭にゲンは右手を添えて引き戻す。
スイレンは多少の抵抗をしてみたが不安定な体制のうえ、力でかなうはずもなくゲンの胸元に頭を預けた。


「…離して」

「え～、離さなきゃだめ？」

「…なんであの時と同じなの？」


スイレンの言うあの時とは親善試合の時のことだろう。
調子の乗って顎に頭突きを食らったのは今はいい思い出である。
今回は頭突きが出来るような体勢ではないがスイレンの機嫌を損ねたくはないのでゲンは頭から手を離して起き上がった。


「俺に何か用事でもあった？」

「用はもう済んだ」

「それってどういう…あ」


ゲンは先程まで自分の頭があった場所のすぐ横に1本のビンが置いてあることに気が付いた。
ビンには千空お手製の「Cola」のラベルが付いている。
どうやらスイレンは疲れているであろうゲンのためにコーラを差し入れに来てくれたようだ。
嬉しさと愛しさが込み上げてきたゲンは今すぐにスイレンを抱きしめたい衝動に駆られたが、流石にそれはぐっと堪えた。


「君はお酒よりもそっちの方がいいでしょ」

「さっすがスイレンちゃん、わかってる～」

「何を作ろうとしてるのかはよくわからないけど、無理しない程度に頑張って」

「ありがとね、おかげ様で疲れが吹っ飛んじゃったよ～」


嬉しそうなゲンを見てスイレンは満足そうにおやすみと言って去っていった。


「…今の笑顔は反則だって。可愛すぎるでしょ」


ゲンの呟きは誰にも聞かれることなく科学倉庫内に消えていく。
そして、スイレンの作ったコーラは相変わらず今まで飲んだどのコーラよりも美味しく感じたのだった。





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