千空の知識とクロムやカセキの頑張りの甲斐もあってついに地獄の製鉄も機械化された。
ラーメン代として働かされていた村の住人たちが喜びの声を上げている。
金の極細線作りはまだまだ続くが製鉄に人手がいらなくなった分、食料調達やほかのクラフトに避ける人員が増えたことは間違いない。


「製鉄に比べると金の極細線作りって楽だよね～」

「私はやらなかったけど、あれ大変そうだもんね」

「…もうバイヤーだったよ。俺毎日ヘトヘトだったもん」

「お疲れ様」


今日もゲンは診療所に入り浸っていた。
金の極細線作りをしながら怪我人が多い時は手当ても手伝ってくれるのでスイレンも大助かりだ。
お喋りは多いもののスイレンがいればサボらないので千空も黙認している。
そして、ゲンが診療所に入り浸っている理由はもう一つある。


「スイレン、ちょっといいか」

「ん、どうしたの？どこか怪我でもした？」

「いや、怪我とかじゃなくて…」


診療所にやってきたチタンは怪我をした様子もなく至って健康そうに見える。
チタンは奥のスペースにいるゲンを見て若干顔をしかめてからやっぱり何でもないと出て行ってしまいスイレンは首を傾げた。


「どうしたんだろう。私に用があったんじゃないのかな？」

「用があるならまた来るんじゃないかな～」

「それもそうだね」


ゲンは毎朝スイレンの髪をアレンジするのが日課となりつつあるのだが、その途端に診療所に来る男性陣が極端に増えたのだ。
まだ午前中だというのに今日はすでに3人目である。
だが、その中に純粋な怪我人はほとんどいない。
下心が見え見えな輩はゲンがいるとわかった途端に去っていくので虫よけの意味も兼ねている。


「最近、さっきのチタンみたいな人が増えた気がするんだけど…なんなんだろう」


スイレンは自分に向けられている好意や下心に全く気付いていない。
その様子を見たゲンはもっと直球でアピールしないとダメかも知れないと感じていた。
仲は良いし他の住人よりも手ごたえを感じることはあるがほとんど進展しないのはスイレンが恋愛に疎いからだということははっきりとしている。
だが、変に距離を詰めて警戒されては元も子もない。
少しずつ確実に心の内側に踏み込んでいくしかないのだ。
正直、ケータイ作りよりもこちらの方が途方もないように感じたゲンはため息を吐いてしまった。
その直後にスイレンは何かを捕まえるような仕草を見せたのだがゲンにはその意図が良くわからなかったので聞いてみることに。


「スイレンちゃん、何してるの？」

「ため息を吐くと幸せが逃げるってよく言うでしょ？だから捕まえておこうかなと思って」

「逃げた幸せを物理的に捕まえるのはリームーでしょ。スイレンちゃんって時々可愛いことするよね～」


あまりにも可愛い理由だったのでゲンは思わず笑ってしまった。
さっきまで感じていたもやもやとしたものも綺麗さっぱりなくなっている。
メンタリストであるゲンをここまで翻弄できる人物はそうそういないだろう。
スイレンの一挙手一投足にここまで振り回されることに驚き、自覚してるよりもずっと好きなんだなとゲンは自分の気持ちを再認識した。


「よーし、もうちょっと頑張ろうかな」

「そうだね、私も頑張る」


進展は特になかったが、金の極細線作りの進捗はとても良い1日であった。





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