君の瞳に映るもの
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勝利を確信していた千空率いる科学王国だったが、戦闘そのものが陽動だと気づいた時には村の居住区が火事になっていた。
山おろしの風が吹いているため火は瞬く間に炎に変わり居住区にいた全員が橋を渡って村の外へと避難してくる。
人質を1人でも取られるとお終いなこの状況でスイレンは腹を括って氷月に立ち向かうことにした。
「やっと僕の相手をしてくれる気になったんですか、嬉しいです」
「正直気乗りしないんだけど…私が君の相手をしていればそれだけ仲間が危険に晒されなくなるんでね」
氷月との大きな実力差は明らかだが、スイレンにはそれなりの戦闘経験がある。
自分の力の無さはよく理解しているので、まともに正面から受けるような事はせずにのらりくらりと攻撃を躱し受け流す。
「戦い方が前回と違いますね」
「…」
「無視ですか」
氷月には話す余裕があるが、少しでも判断が遅れると即終了という状況のスイレンは返答する余裕がないのだ。
傍目からは拮抗しているように見えていたがパワーもリーチもスタミナも差があるため、徐々に氷月が優勢になっていく。
「僕が目の前にいるのに他の心配ですか」
「っ…」
氷月の攻撃が左肩に当たり強烈な痛みにスイレンの顔が歪んだ。
前回の傷が開いてしまったようで血が滲む。
氷月の右腕であるほむらが科学倉庫やラボの近くにも火を放ち、千空たちが慌てている声が耳に入ってくるので目の前の相手に集中ができない。
他の男たちもこの混乱に乗じて人質を取ろうと村の住人たちが集まる方へ向かってしまった。
一刻も早く氷月を何とかしてそちらへ向かいたいが焦るばかりで動きが鈍る。
「いっそのこと、君を人質にしてしまいましょうか」
地面に片膝をついて息が上がっているスイレンに氷月がそう言い放ち、腕を振り上げる。
迫りくる攻撃にスイレンは固く目を閉じたが何かに包み込まれる感覚と予想していたものとは違う衝撃、そして覚えのある花の香りに驚いて目を開けた。
「…ゲ、ン?」
「ギリギリセーフ、かなあ」
スイレンはゲンに抱きしめられる形で地面に転がってる。
ゲンの肩越しに見えた氷月も目を見開いて驚いているように見えた。
攻撃が当たる直前に助けられたのだということは理解できたが、ゲンらしくない行動にスイレンは困惑するばかりだ。
「ゲン君、今のは随分と君らしくない行動ですね」
「…俺もらしくないってのは自覚してるよ。でもさ、スイレンちゃんを人質に取られるわけにはいかないんだよね」
「そうですか」
そう言いながら攻撃しようとした氷月の動きが止まった。
よく見るとマントの端が木に固定されている。
固定するのに使われているのは氷月の槍先に細工をしたあの小さな刃物だった。
千空に返していた筈だがいつの間にか回収し、スイレンを助ける際に一瞬の隙をついて投げたそれで氷月のマントを木に固定したのだ。
マジシャンであるゲンだからこそできる早業である。
氷月の意識がこちらから逸れた瞬間にゲンはスイレンを抱えて急いでその場を離れた。
科学倉庫付近の火はすでに消えていてゲンは真っ直ぐ診療所へと向かう。
「…追いかけてはきてないみたいだね」
安堵のため息を吐くゲンをスイレンはじっと見つめる。
抱えられた状態なのでいつもより顔の距離が近い。
「そんなに見つめられると流石に照れちゃうなあ」
「助けてくれたことはありがとう、でもとりあえず下ろして」
「だーめ、下ろしたらまた戦いに行っちゃうでしょ」
「…でも」
「でもじゃない。スイレンちゃんをこれ以上戦わせるわけにはいかないんだからね」
もう戦えないでしょと言われたスイレンは図星過ぎてぐうの音も出なかった。
正直もうまともに走れないし戦うなんてもってのほかだ。
だが、スイカが囮となって山の方へ向かったことがわかっているので一刻も早く追いかけたい。
スイカのことはコハクと千空が追いかけていったらしく2人に任せなさいと言われてしまった。
ゲンはスイレンを抱えたまま診療所の椅子に腰かける。
「…無事で良かった」
スイレンを抱きしめながらそう呟くゲンの声が今にも泣きだしそうなくらい弱々しかったので何も言えなかった。
背中に回っている腕が震えている。
スイレンでも怖いのだから、きっと非戦闘員のゲンはもっと怖かったのだろう。
でも、ゲンはスイレンを助けるために氷月の前に飛び出したのだ。
肩口に当たる髪がくすぐったいが今は好きにさせてやろうとスイレンもゲンの背中に静かに腕を回すのであった。
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山おろしの風が吹いているため火は瞬く間に炎に変わり居住区にいた全員が橋を渡って村の外へと避難してくる。
人質を1人でも取られるとお終いなこの状況でスイレンは腹を括って氷月に立ち向かうことにした。
「やっと僕の相手をしてくれる気になったんですか、嬉しいです」
「正直気乗りしないんだけど…私が君の相手をしていればそれだけ仲間が危険に晒されなくなるんでね」
氷月との大きな実力差は明らかだが、スイレンにはそれなりの戦闘経験がある。
自分の力の無さはよく理解しているので、まともに正面から受けるような事はせずにのらりくらりと攻撃を躱し受け流す。
「戦い方が前回と違いますね」
「…」
「無視ですか」
氷月には話す余裕があるが、少しでも判断が遅れると即終了という状況のスイレンは返答する余裕がないのだ。
傍目からは拮抗しているように見えていたがパワーもリーチもスタミナも差があるため、徐々に氷月が優勢になっていく。
「僕が目の前にいるのに他の心配ですか」
「っ…」
氷月の攻撃が左肩に当たり強烈な痛みにスイレンの顔が歪んだ。
前回の傷が開いてしまったようで血が滲む。
氷月の右腕であるほむらが科学倉庫やラボの近くにも火を放ち、千空たちが慌てている声が耳に入ってくるので目の前の相手に集中ができない。
他の男たちもこの混乱に乗じて人質を取ろうと村の住人たちが集まる方へ向かってしまった。
一刻も早く氷月を何とかしてそちらへ向かいたいが焦るばかりで動きが鈍る。
「いっそのこと、君を人質にしてしまいましょうか」
地面に片膝をついて息が上がっているスイレンに氷月がそう言い放ち、腕を振り上げる。
迫りくる攻撃にスイレンは固く目を閉じたが何かに包み込まれる感覚と予想していたものとは違う衝撃、そして覚えのある花の香りに驚いて目を開けた。
「…ゲ、ン?」
「ギリギリセーフ、かなあ」
スイレンはゲンに抱きしめられる形で地面に転がってる。
ゲンの肩越しに見えた氷月も目を見開いて驚いているように見えた。
攻撃が当たる直前に助けられたのだということは理解できたが、ゲンらしくない行動にスイレンは困惑するばかりだ。
「ゲン君、今のは随分と君らしくない行動ですね」
「…俺もらしくないってのは自覚してるよ。でもさ、スイレンちゃんを人質に取られるわけにはいかないんだよね」
「そうですか」
そう言いながら攻撃しようとした氷月の動きが止まった。
よく見るとマントの端が木に固定されている。
固定するのに使われているのは氷月の槍先に細工をしたあの小さな刃物だった。
千空に返していた筈だがいつの間にか回収し、スイレンを助ける際に一瞬の隙をついて投げたそれで氷月のマントを木に固定したのだ。
マジシャンであるゲンだからこそできる早業である。
氷月の意識がこちらから逸れた瞬間にゲンはスイレンを抱えて急いでその場を離れた。
科学倉庫付近の火はすでに消えていてゲンは真っ直ぐ診療所へと向かう。
「…追いかけてはきてないみたいだね」
安堵のため息を吐くゲンをスイレンはじっと見つめる。
抱えられた状態なのでいつもより顔の距離が近い。
「そんなに見つめられると流石に照れちゃうなあ」
「助けてくれたことはありがとう、でもとりあえず下ろして」
「だーめ、下ろしたらまた戦いに行っちゃうでしょ」
「…でも」
「でもじゃない。スイレンちゃんをこれ以上戦わせるわけにはいかないんだからね」
もう戦えないでしょと言われたスイレンは図星過ぎてぐうの音も出なかった。
正直もうまともに走れないし戦うなんてもってのほかだ。
だが、スイカが囮となって山の方へ向かったことがわかっているので一刻も早く追いかけたい。
スイカのことはコハクと千空が追いかけていったらしく2人に任せなさいと言われてしまった。
ゲンはスイレンを抱えたまま診療所の椅子に腰かける。
「…無事で良かった」
スイレンを抱きしめながらそう呟くゲンの声が今にも泣きだしそうなくらい弱々しかったので何も言えなかった。
背中に回っている腕が震えている。
スイレンでも怖いのだから、きっと非戦闘員のゲンはもっと怖かったのだろう。
でも、ゲンはスイレンを助けるために氷月の前に飛び出したのだ。
肩口に当たる髪がくすぐったいが今は好きにさせてやろうとスイレンもゲンの背中に静かに腕を回すのであった。
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