短編
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さっきまで日差しが明るく差していたのにも関わらず、突如として降った雨。面子を打ちつけるような激しい音を立てて、雨粒が跳ね返る。
「これじゃあ、お出かけできないじゃん!」
「冷えるから」と零くんから手渡されたココアのマグカップを握りながら不平を零す。ぷかりと浮かんだマシュマロが、段々とココアに浸食されていく。
「まるで私の気持ちみたいだ」とセンチメンタルな感情が生まれだしていく。
「いいじゃないか。別にいつだって行けるだろ。」
「零くんとの久々のお出かけなんだよ!?」
「……それは、」
しまった。つい言いすぎてしまった。彼が口をつぐんで、やっと気がついた。零くんは普段一緒にいられないことに引け目を感じている。そのことを思い出したのだ。
お互いに悪気はなかったとはいえ、すこし気まずい空気が流れる。雨の音だけが、零くんの広いリビングにこだましていく。
気まぎれに、ココアに口をつけた。ココアよりもとろっとした口当たりに、すこしの違和感を感じる。
これはココアではなくて、チョコレートドリンクだな?
私は過去に「家ではチョコレートとミルクで作っている」と言ったことがある。それを覚えていてくれたのかもしれない。そういえばあの時、“なんのチョコレートを使っているか”とか、“ミルクはどれだけ入れるか”とか、いろんな情報を引き出された気がする。
また一口、ゆっくりと嚥下する。まだ少しの温かさと柔らかい後味を含んだチョコレート色の液体は、私の心を和らげるのには十分すぎた。
私から目を逸らす零くんの顔を覗き込む。
「あのね、」
「あのさ、」
「……零くんから、どうぞ…?」
「いや、そっちから…!」
なんだか、段々と面白くなってきてしまって、笑いが止まらない。
気まずくなっていたのが馬鹿らしくて。零くんが私を想ってくれていることが嬉しくて。
「お出かけしたいけど、それよりも零くんと一緒にいる時間が大切だね。」
「……!」
しみじみと目を合わせて笑うと、零くんはちょっとびっくりして、そうして私の頭を撫でてくれるんだよね。知ってる。それが照れ隠しってことも、全部。
普通より体温が低い零くんの手のひらを握って雨の音に聴き入る昼過ぎに、“たった2人だけの時間”に浸るのでした。
「雨上がったけど、どうする?」
「ううん、今日は零くんとお話がしたいな!」
「……そうか。」
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