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言葉が息をしたがっている

圧迫感。わたしが雨を好まない理由はこのたったひとつ。今にもどすん、と音を立てて落ちて来そうなほど頭上に重たく広がる雲―極力空を視界に入れないようにと傘で目元を隠す。しかしだからと言って屋内へ足を運ぶのも気が進まない。この身を更に二重に囲われるだなんてそれこそ息が出来なくなりそうだ。嫌に吐き気 がして、肩を竦めて狭苦しいビルの谷間を抜ける。
この厚い雲を隔てて遠く、遠くへと広がる宇宙がある。それに比べれば人の身体なんて余りに小さすぎて、もし"魂"というものが存在するのであれば、この器の中でどれだけ窮屈な想いをしているのだろうか、と。それはそれは小さく衰え消えてしまいそうで、それはそれは身を粉々と破裂させてしまいそうで、悶々と。
唯一この世で永遠を魅せてくれる蒼は、この瞳の紅すら染め変えてしまう。視界には蒼のみを留めることで、自身の意識をなくすのだ。
「タダほど高いものは無い」―なんて、何処かの誰かが口にしていた。強いて言葉を借りるのならば少々浅はかながらも丁度いいだろうか、―形の無いものほど貴いのだと。大きいも小さいもない、なら"魂"だけになれば、わたしはその時初めて"自由"の意味を知ることができるのだろうか。


――けど、それでも、雨の夜に1人ベンチに座りこんでいるのは嫌いじゃない。耳を塞げば容易く雨音は消え去り、瞼を閉じれば先程まで雲の上から滲み入っていた鈍い陽光はもう瞳には届かないし、後はわたしと雨粒とを隔てる何かがありさえすれば、―闇がすべてを飲み込んでくれる。
宇宙も闇であるならば、今こそその世界と本当に繋がれたのだと錯覚できる。その時点でわたしは既に、"無限"という名の無知に、囚われている事と知りながらも。


嗚呼、こんなにも容易く五感に支配されてしまう己が窮屈でならない。そして窮屈と暴れ嘆くほどにこの器はその想いを抑え付けたがる。
そんな器の中で、わたしはどれだけの自由を抱く事ができるのか、そして己の魂の在り処に辿り着く事ができるのか。



生きとし生けるものはきっと、死しても尚それを問われ続けるのだろう。




2010.10.29
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