再会した幼なじみは、学園の極上王子様でした。~和菓子屋の不器用な恋、お届けします~
入学式も中盤に差し掛かり、体育館には少しだけ重苦しい空気が漂い始めていた。
来賓の紹介や校長先生の長いお話が続き、周囲の生徒たちも心なしか落ち着きをなくしている。
けれど、私はそんな厳かな雰囲気からひとり取り残されたように、ぼんやりと考え事をしていた。
(蓮と律、結局何組になったんだろ……)
クラス分けの掲示板を全部見る前に春樹に連れてこられてしまったから、あとの二人の居場所がわからない。
少なくともこのA組には、二人の姿はなかった。
(……まあ、春樹と同じクラスになれただけでも、奇跡みたいなものだよね)
期待していた「四人一緒」は叶わなかったけれど、最難関のこの学校に合格して、またこうして同じ空気を吸えている。それだけで十分だと言い聞かせ、私は少しだけ落ちかけそうになった肩をぐっと持ち上げた。
やがて式が終わり、新入生退場のアナウンスが流れる。
教室に戻ると、担任の百合先生が「親睦を深めるために、一人ずつ自己紹介をしましょう」と朗らかに告げた。
(……一番苦手なやつだ)
私は昔から、人前に立って注目を浴びるのが大の苦手だ。
自分の順番が近づくにつれて、心臓の音が耳元までうるさく響き渡る。
「じゃあ次、羽月さん。お願いね」
「は、はいっ……!」
椅子がガタッと音を立て、私は弾かれたように席を立った。
視界が急に開けて、クラスメイトたちの視線が一斉に私に突き刺さる。
「は、羽月琴音です……。実家が和菓子屋なので、好きな食べ物は和菓子です。よ、よろしくお願いします……っ」
消え入りそうな蚊の鳴くような声。
慌ててお辞儀をして席に座ると、パラパラと小さな拍手が起こった。
けれど、その音は私の前に自己紹介したハキハキとした女子の時よりも、ずっと小さくて短い気がして。私は恥ずかしさのあまり、顔を伏せてしまった。
「はい、ありがとう。和菓子屋さん、素敵ね。えっと、次は……」
自己紹介が一周すると、今度は本格的な学校生活の役割分担――委員決めが始まった。
「前期と後期がありますから、この一年で一回はどこかの委員会に入ってもらいます。まずは半年間、クラスを引っ張ってくれる学級委員を決めましょうか。誰か、立候補したい人はいる?」
百合先生が優しく辺りを見回すけれど、返事はない。
みんな、入学初日から責任の重い仕事を引き受けるのは嫌なのだろう。教室を気まずい沈黙が支配する。
そんな静寂を、凛とした声が打ち破った。
「……はい!僕、やります」
「あら、瀬戸くん?いいの?ありがとう、心強いわ」
手を挙げたのは、春樹だった。
新入生代表を務めた彼が立候補したことで、教室の空気が一気に華やぐ。
昔からどこか人を惹きつける力があったけれど、今日見る春樹はなんだかずっと大人びていて、頼もしく見える。
「じゃあ男子は瀬戸くんで決まりね。……女子からも、誰か一人選出してほしいのだけど」
先生の問いかけに、今度は誰も目を合わせようとしない。
私は石のように固まって、自分の名前が呼ばれないことをただ祈っていた。
「……はい!」
不意に、斜め前から元気のいい声が上がった。
「あら、進藤さん。立候補かしら?」
「いえ!羽月琴音さんを推薦します!彼女、すごく真面目だし、適任だと思います!」
「えっ……えええっ!?」
私は思わず、椅子から立ち上がりそうになった。
あかりんは、満面の笑みで私を指差している。
(ちょ、ちょっと待ってあかりん!私、委員なんて無理だよ……!)
慌てて視線で訴えるけれど、あかりんは親指を立てて「大丈夫、大丈夫。私もサポートするから!」と口パクで返してくるだけ。
なんとも根拠のない、そして恐ろしい応援だった。
「どうかしら、羽月さん。瀬戸くんとなら、きっと心強いわよ?」
百合先生の優しい笑顔が、今の私には逃げ場を塞ぐ網のように見える。
「意義がある人はいる?」という先生の問いに、当然、反対する者など一人もいなかった。むしろ、面倒な役目が決まってホッとしたような空気が教室に流れている。
隣の列の少し前の方で、春樹がくるりとこちらを振り返った。
そして、私と目が合うと、悪戯っぽく、けれど優しく微笑んだ。
「よろしくね、琴音。また一緒にいられて嬉しいよ」
その笑顔を見た瞬間、周りの女子たちから「えっ、知り合い?」「呼び捨て……?」という驚きと羨望の混じった囁き声が漏れる。
「……っ、よ、よろしくお願いします……」
蚊の鳴くような声でそう答えるのが精一杯だった。
どうやら私の学園生活は、初日から波乱の連続になるみたいだ。
憧れの蒼月学園。
三人と再会できた喜びよりも先に、心臓が持たないかもしれないという不安が、私の胸をいっぱいに満たしていった。
来賓の紹介や校長先生の長いお話が続き、周囲の生徒たちも心なしか落ち着きをなくしている。
けれど、私はそんな厳かな雰囲気からひとり取り残されたように、ぼんやりと考え事をしていた。
(蓮と律、結局何組になったんだろ……)
クラス分けの掲示板を全部見る前に春樹に連れてこられてしまったから、あとの二人の居場所がわからない。
少なくともこのA組には、二人の姿はなかった。
(……まあ、春樹と同じクラスになれただけでも、奇跡みたいなものだよね)
期待していた「四人一緒」は叶わなかったけれど、最難関のこの学校に合格して、またこうして同じ空気を吸えている。それだけで十分だと言い聞かせ、私は少しだけ落ちかけそうになった肩をぐっと持ち上げた。
やがて式が終わり、新入生退場のアナウンスが流れる。
教室に戻ると、担任の百合先生が「親睦を深めるために、一人ずつ自己紹介をしましょう」と朗らかに告げた。
(……一番苦手なやつだ)
私は昔から、人前に立って注目を浴びるのが大の苦手だ。
自分の順番が近づくにつれて、心臓の音が耳元までうるさく響き渡る。
「じゃあ次、羽月さん。お願いね」
「は、はいっ……!」
椅子がガタッと音を立て、私は弾かれたように席を立った。
視界が急に開けて、クラスメイトたちの視線が一斉に私に突き刺さる。
「は、羽月琴音です……。実家が和菓子屋なので、好きな食べ物は和菓子です。よ、よろしくお願いします……っ」
消え入りそうな蚊の鳴くような声。
慌ててお辞儀をして席に座ると、パラパラと小さな拍手が起こった。
けれど、その音は私の前に自己紹介したハキハキとした女子の時よりも、ずっと小さくて短い気がして。私は恥ずかしさのあまり、顔を伏せてしまった。
「はい、ありがとう。和菓子屋さん、素敵ね。えっと、次は……」
自己紹介が一周すると、今度は本格的な学校生活の役割分担――委員決めが始まった。
「前期と後期がありますから、この一年で一回はどこかの委員会に入ってもらいます。まずは半年間、クラスを引っ張ってくれる学級委員を決めましょうか。誰か、立候補したい人はいる?」
百合先生が優しく辺りを見回すけれど、返事はない。
みんな、入学初日から責任の重い仕事を引き受けるのは嫌なのだろう。教室を気まずい沈黙が支配する。
そんな静寂を、凛とした声が打ち破った。
「……はい!僕、やります」
「あら、瀬戸くん?いいの?ありがとう、心強いわ」
手を挙げたのは、春樹だった。
新入生代表を務めた彼が立候補したことで、教室の空気が一気に華やぐ。
昔からどこか人を惹きつける力があったけれど、今日見る春樹はなんだかずっと大人びていて、頼もしく見える。
「じゃあ男子は瀬戸くんで決まりね。……女子からも、誰か一人選出してほしいのだけど」
先生の問いかけに、今度は誰も目を合わせようとしない。
私は石のように固まって、自分の名前が呼ばれないことをただ祈っていた。
「……はい!」
不意に、斜め前から元気のいい声が上がった。
「あら、進藤さん。立候補かしら?」
「いえ!羽月琴音さんを推薦します!彼女、すごく真面目だし、適任だと思います!」
「えっ……えええっ!?」
私は思わず、椅子から立ち上がりそうになった。
あかりんは、満面の笑みで私を指差している。
(ちょ、ちょっと待ってあかりん!私、委員なんて無理だよ……!)
慌てて視線で訴えるけれど、あかりんは親指を立てて「大丈夫、大丈夫。私もサポートするから!」と口パクで返してくるだけ。
なんとも根拠のない、そして恐ろしい応援だった。
「どうかしら、羽月さん。瀬戸くんとなら、きっと心強いわよ?」
百合先生の優しい笑顔が、今の私には逃げ場を塞ぐ網のように見える。
「意義がある人はいる?」という先生の問いに、当然、反対する者など一人もいなかった。むしろ、面倒な役目が決まってホッとしたような空気が教室に流れている。
隣の列の少し前の方で、春樹がくるりとこちらを振り返った。
そして、私と目が合うと、悪戯っぽく、けれど優しく微笑んだ。
「よろしくね、琴音。また一緒にいられて嬉しいよ」
その笑顔を見た瞬間、周りの女子たちから「えっ、知り合い?」「呼び捨て……?」という驚きと羨望の混じった囁き声が漏れる。
「……っ、よ、よろしくお願いします……」
蚊の鳴くような声でそう答えるのが精一杯だった。
どうやら私の学園生活は、初日から波乱の連続になるみたいだ。
憧れの蒼月学園。
三人と再会できた喜びよりも先に、心臓が持たないかもしれないという不安が、私の胸をいっぱいに満たしていった。
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