再会した幼なじみは、学園の極上王子様でした。~和菓子屋の不器用な恋、お届けします~

校門をくぐると、そこには見渡す限りの新しい制服と、満開の桜が舞い散る光景が広がっていた。

お父さんの車を降りた私は、緊張で震える足を動かし、人混みに紛れてクラス分けが張り出されている掲示板へと向かう。

けれど、掲示板の前はすでに黒山の人だかり。

「えっと……」

背が低い私には、人の壁しか見えない。

つま先立ちをして、必死に『羽月琴音』の名前を探すけれど、下の方にあるはずの文字にさえ、なかなか目が届かない。

「……A組だよ」

突然、耳元で低くて心地いい声が響いた。

「へっ?」

驚いて振り返ると、すぐ後ろに誰かが立っていた。
あまりの近さに心臓が跳ねる。見上げた先にいたのは――。

「久しぶりだね、琴音。元気だった?」

「……っ、春樹……?」

そこには、記憶の中よりもずっと背が高く、大人びた瀬戸春樹の姿があった。

少し癖のある髪は相変わらずだけど、その顔立ちは驚くほど端正に整っていて、周囲の視線を独り占めにするような透明感を放っている。

「うん……元気、だったよ。あ、ありがとう……」

「どういたしまして。人が多くて見えなかったんだろう?」

春樹くんは、昔と変わらない優しさでふわりと微笑んだ。

あまりにもあっけない、けれど衝撃的な再会に、私はすっかり調子が狂ってしまう。

「あの……蓮と、律は……?」

「蓮と律もそのうち来るよ。……ここ、人酔いするから。早く教室に向かおう」

淡々と、けれど迷いのない足取りで歩き出した春樹くんに促され、私はふわふわした足取りで1年A組の教室へと向かった。

ガラガラ……と教室のドアを開けると、そこにはすでに見慣れた、けれど心強い笑顔があった。

「あれ……琴音!?嘘、一緒のクラス!?」

「っ……あかりん!」

そこにいたのは、中学時代からの親友、進藤あかり。

私の数少ない理解者で、3年間ずっと一緒にいた自慢の友達だ。

「同じクラスなの!?超嬉しい!」

「私もだよー!あかりんがいるなら百人力だよ!」

あかりんと手を取り合って喜んでいると、いつの間にか春樹の姿が消えていた。

(あれ……どこに行ったんだろう……)

少しだけ胸がチクリとしたけれど、次々と席が埋まり、教室の熱気が上がっていく。

「みなさん、初めまして。担任を務めます、山下百合です。一年間よろしくね」

教壇に立ったのは、穏やかな笑みを浮かべた若い女性の先生だった。

私は密かにホッとする。体育会系の厳しい先生が苦手な私にとって、百合先生の柔らかな雰囲気は、この慣れない環境での唯一の救いに思えた。

「それじゃあ、体育館に移動しましょう。出席番号順に並んでね」

先生の言葉に従って、廊下へと出る。

結局、春樹くんは教室に戻ってこなかった。

……何かあったのかな。そんな不安を抱えたまま、私は体育館へと続く長い廊下を急いだ。

『新入生、入場』

厳かな音楽とともに、式が始まる。

緊張に包まれた空気の中、式次第は進んでいき、やがてその瞬間が訪れた。

『新入生代表、宣誓』

そのアナウンスが流れた瞬間、私の心臓が大きく跳ねた。

壇上に上がったのは――間違いなく、さっき私を見つけてくれた、春樹くんだった。

「……っ」

凛とした足取りでマイクの前に立つ姿。

さっきまで私に微笑みかけていた幼なじみとは思えないほど、今の彼は遠く、輝いて見える。

春樹くんは淀みのない声で、新入生代表としての言葉を淡々と述べていく。

「ねえ、あの人……超イケメンじゃない?」

「A組の瀬戸くんだって。サッカーの推薦らしいよ、しかも成績トップとか凄すぎ……」

周囲の女子生徒たちの、熱を帯びた囁き声が聞こえてくる。

ずっと近くにいたから、今まで意識したことがなかった。

でも、ステージの上でスポットライトを浴びる彼を客観的に見たとき、私はようやく自覚した。

春樹は――昔の「幼なじみの男の子」じゃない。

学園中の視線を釘付けにする、高嶺の花のイケメンなんだってことに。

遠いステージを見つめる私の胸の奥で、再会の喜びとは違う、小さな焦りがチクリと音を立てた。
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